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作品名:パピヨンは、ご機嫌ななめ 作者:ジン 竜珠

第70回 neuf−8
 唐隅(からすみ)直彦(なおひこ)は、逃走していた。
 水曜日、午前八時。今日は、休暇を取っている。
 いや、この表現は正確ではない。休みを取って、次の『仕事』の準備をするように言われたのだ。
 次の『仕事』は、一つ隣の市だ。下見はすませてあるが、そこにいる警備員(なかま)の話では、「逃走ルート」の一部で工事が始まってしまい、ルートを一部、変更しなければならないらしい。
 なので、確認に行こうとしたとした矢先だった。
 赤い影について、いつか自分に話を聞きに来た二人組の刑事がやって来て、「三ヶ月前の、古美術商の邸宅で起きた盗難事件について、詳しく聞きたい」と言ってきたのだ。
 まずい、と、直感した。まず、シラを切ることを考えたが、実は、その前後の日時にアリバイらしいものがない。というより、当時、自分は隣の県の供多實(ともたみ)市に住んでいたので、館端市に泊まりがけできていたのだ。そして、本名で宿泊してしまった。
 調べれば、すぐにわかってしまう。
 三ヶ月も前だから、ホテルの部屋に指紋や、防犯ビデオの映像が残っていることはないだろう。また、それだけ昔のことだから、「覚えていない」で片付けることもできる。
 だが、ホテルに宿泊する際、カードに記入してしまった筆跡を調べられたら? あるいは、考えにくいことだが、宿泊者カードに指紋が残っていて、検出されてしまったら?
 そう考えたとき、直彦は、ほぼ反射的にバイクのスロットルを入れて、逃げ出していた。

 高校時代の同級生、山辺(やまべ)孝輔(こうすけ)とは、三年間で同じクラスになったことは一度もない。だが、部活動の吹奏楽部で、一緒であり、仲は良かった。大学は別々だったが、同じ生活圏ということもあり、高校卒業後も、そして、大学卒業後も親しくしていた。
 供多實市に住んでいた三ヶ月ほど前、失業して困っていた直彦に、警備会社に勤める孝輔から、「仕事を手伝わないか」と持ちかけられた。孝輔は館端市に本社がある警備会社に就職し、しばらく前から本社のある館端市に引っ越していた。
 なんの仕事かと聞いたら、「古美術商の邸宅と、その土蔵に侵入し、あらかじめ決めておいた古美術品を盗むこと」だというではないか!
 もちろん、断った。だが、鍵や逃走経路は確保してあるという。そもそも、その邸宅の警備を担当している警備会社そのものが主導していることなので、警備システムについては、一切、問題ないということだった。
 おかしいと思って聞いてみた。「自分のところが警備している邸宅で、窃盗が起きたら、信用問題になる。おかしくないか?」と。
 孝輔の答は、こうだった。

「社長がさ、資産を不法に溜め込んでるんだ。それがバレそうになっててさ、いろいろ考えて、社を倒産させて、表向きの資産を破産管財人に一任して、資産隠しを逃れようってことになったらしい。その際、社員の一人の元倉(もとくら)功郎(いさお)ってシステムエンジニアが、警備システムに、いろいろと細工してた、ってことにしてあるらしい。元倉さんが、『窃盗のメンバーは、その都度、ネットの裏サイトで募集したから、詳しい素性は知らない』っていう筋書きで、警察には『自供』する、って言ってたらしいぜ。娑婆(シャバ)に出たら、社長が生活とか、もろもろ保障してくれるって、言われてるらしいけど、どうかなあ、それって……?」
「……うまくいくのか、それって?」
「さあな? でも、自分の会社(ところ)が警備してる家とかばかりじゃ疑われるから、他の警備会社にも、自分の会社が潰れたあとで、そのクライアントを回すから、とかなんとかいうことで、話をしてるらしい。この『計画』に協力した社員は、社が潰れたあとで、その会社に移るってことにもなってるらしいが、詳しいことは知らん。……どうだ、やってみないか? うまくいったら、お前のこと、社長に口、利いてやるからさ」


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