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作品名:パピヨンは、ご機嫌ななめ 作者:ジン 竜珠

第63回 neuf−1
 火曜日の放課後、パピヨンは吾妻由梨の自宅に向かっていた。
 もしかすると、ルー・アジュールの仕掛けた催眠術が、解けかかっているのかも知れない。そのため、由梨は「男」に対する恐怖を抱いているのかも知れない。
 冗談ではない。
 もし、ここで由梨が鞠尾和磨を遠ざけ、「トレゾー」が出現しなかったら。
 また、アカシックレコードを検索し直す、という作業に追われることになる。その間、事態が変化してしまったら?
 たとえば「あの人」に恋人ができ、「鞠尾(まりお)和磨(かずま)が愛した女のヴァージン」に興味を抱かなくなってしまったら?
 いや、あるいは、「あの人」の境遇に変化が起こり、沢渡(さわたり)美春(みはる)と、大学卒業以来、初めての再会を果たしてしまって、二人が結ばれでもしたら?
「あの人」が、大学の頃と変わらず、一途に沢渡美春を愛している、というのが、前提になっているのだ。そして、それだけ一途な思いを抱ける人だからこそ、パピヨン……いや、おそらくシャットにとっても、「運命の人」になり得ているのだ。
「冗談じゃないわよ、本当に」
 思わず、そう呟いたときだった。
 音が消えた。
 また、誰かが時間と空間を盗んだか。そう思ったときだった。
 何か、妙な気配が続けざまに起きたのを感じて、身をかわした。
 いきなり、左の肩口に、熱いものが走った。
 一瞬で、「何か」が飛んできて、肩をかすめたことを知ったパピヨンは、電柱の影に隠れた。
 傷はふさがっているが、ジャケットとブラウスは裂けている。
「まさか、なんらかの『飛び道具』?」
 そう呟いたとき、また、何かが、今度は右の太ももの外側をかすめた。一瞬の熱さと痛みが、パピヨンにある推測をもたらす。
「狙撃!? 待って、そんな技能の持ち主で、ここまで精度の高い人間は、この街には、いなかったはず!?」
 電柱から出て、建物の影に入る。念装したとき、今度は、左側頭部に、激痛と衝撃が起こり、アルミュールが消し飛んだ。
 狙撃してくる位置がデタラメだ。おそらく、パピヨンが姿を隠す度(たび)に空間を盗み、的確な位置から狙撃してくるのだろう。
 そんな執念深いことをしてくるのは、シャットぐらいだ。
「あいかわらず、ムチャクチャするわね!」
 詳しい原理はわからないが、時間と空間を盗むのは、一度に保持できる「何もない空間」の七、八割程度を消費するらしい。つまり、それだけ、手持ちの「空間」のうち他のことに使える「空間」の比率が減り、必然的に盗める容量や、盗んでしまい込んでおいた、手札の数が減ることを意味する。
 その状態で、さらに空間や距離を盗み続ける、ということは、言い換えれば、シャットはこの「狙撃」の技能(スキル)にのみ、すべてを使っているということでもある。
 必ず、ここでパピヨンを仕留める、と、暗(あん)に言っているのだ。
 そこまでの妄念をシャットが抱くのは、わからないでもない。おそらく「あの人」は、シャットにとっても「運命の人」。だから、最近になって盗むトレゾーが、妙にバッティングしてきた。
 だからこそ、パピヨンを始末して、自分が「あの人」と結ばれようとしているのだろう。


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