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作品名:パピヨンは、ご機嫌ななめ 作者:ジン 竜珠

第56回 huit−1
 鞠尾美砂子たちが白塔(はくとう)の美術館に赴いたとき、幸いにして、防犯カメラの映像はまだ残っていた。
 もちろん、警察にも映像のコピーはある。だが、映像に変な細工がないと判明した時点で、重要視されていない。また、映像を見るだけではなく、実際に「あること」を検証したいと思って、ここまで来たのだ。下手をすると、「証拠」が「消えてしまう」かも知れない。そうも思って。
 念のために証拠保管係を拝み倒して、映像のコピーを持参したが、オリジナルがあるなら、そちらの方が望ましい。
 美砂子は、まず、事件が起きた日以外の防犯カメラの映像を再生させた。そして、一時停止をかけさせ、持参した巻き尺で画面の『中』を計る。そして、事件当日、当該時間の映像を再生してもらった。閉館後、約二時間半後の、午後七時八分。警備員が展示室に入って、二秒後に警備員の姿が忽然と消え、無人の展示室が映っている。その時の時計のカウンターが二分三十秒ほど経っているのを確認すると、美砂子は、言った。
「一時停止にしてください」
 そう言って、美砂子は、当番の新人だという若い警備員に、映像を止めさせた。そして、再び、巻き尺を取り出し、画面の『中』を計る。
「何してるんですか、警部補?」
 そんなことを言って首を傾げる水島刑事に「ちょっとね」と答えてから、美砂子は映像を再開させる。
 ただし、早送りにして、次の映像消去時間までスキップさせたが。
 次の時間は、午後八時八分から、二分十秒ほど。やはり、警備員が入室して、二、三秒後にその姿が突然、消えている。
 今度は午後九時九分から。同じく、警備員が入室して、一秒後、警備員が消え、時計のカウントが二分十秒ほど進んでいる。あとは、同じだった。午後十時七分から三分ほどの消去映像も、午後十一時八分から二分四十秒ほどの消去映像も、翌日の午前〇時八分から一分五十秒ほどの消去映像も、警備員が入ってきて、一、二秒後に消去されているようだ。
 ただ、最後の午前一時九分からは、少し違っていた。警備員が入る前に時間が急に三分間ほど経っているのだ。
 それを見ると、美砂子は、〇時十分以降の映像を再生させ、一時停止をかけさせた。
 巻き尺を取り出し、画面の『中』を計り始める。何かを確信したように頷き、そして。
「すみません、この映像、二倍速程度に早回しをしていただけますか?」
 その言葉を聞き、不思議そうな表情を浮かべながら、警備員が指示通りにする。
 早回しの映像を見ていた美砂子だが、あることに気づき、推理が確信に変わりつつあるのを感じた。
 その確信を胸に、美砂子は言った。
「すみません、『証拠』……」
 言いかけて、咳払いをする。少し「配慮」の足りない表現だったことに気づき、言い直す。
「すみません、当日、警備を担当された、あの三人の方とは、まだ、連絡がとれますか? 姿が『消えてる』、なんてこと、ないですよね?」
 美砂子の言葉に、警備員が頷いた。
「ええ。今日は、確か、旗琳(きりん)の本社の方にいると思いますが?」
 それを聞き、美砂子は、水島に言った。
「水島くん、あの三人、任意で引っ張るわよ!」
「え? 警部補、どういうことですか? ていうか、なにがなんだか、さっぱりわからないんですが?」
 ここで、美砂子は推理も含めて、すべてが自分の中だけで展開し、完結していたことに、初めて気づき、苦笑いが浮かんでくるのを感じながら、言った。
「この映像、トリックがあるの」
「トリック?」
 水島が首を傾げると、美砂子は水島に、〇時十分以降の映像を見るよう、指示した。
「最初は、トイレにでも寄ってたから、一時九分のものだけ、警備員が入室してから映像が消えているわけじゃない、って思ってたの」
「……すみません、警部補の言っていること、なにがなんだか、訳がわからないんですけど?」
「いい? 他の映像は、みんな、警備員が入ってきてから、消えてるでしょ? でも、最後のものは、警備員が入ってくる前に、映像が消えてる」
「それが? なんか、意味でもあるんですか?」


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