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作品名:パピヨンは、ご機嫌ななめ 作者:ジン 竜珠

第55回 sept−7
「世界が融合したら、あたしの存在は根本的に変わってしまうかも知れない。『あたし』が『あたし』でなくなってしまうかも知れない。それはそれでいいのかも知れないけど」
 涙がにじんでくるのを感じながら、彼女はその先を吐きだした。
「怖いの! 自分が自分でなくなるなんて、イヤなの! そんなの、耐えられない! でも、見つけたの、あたしの『存在』を確立してくれる……魂の欠けたところを埋めてくれる『運命の人』を! 『あの人』と結ばれて、子どもを産んだら、あたしは『あの人の妻、その子の母親』として、存在できる! 『あの人』があたしと結婚した世界と、そうでない世界、『あの人』の子どもが、男の子か、女の子か、一人なのか二人なのか。その子どもが、どんな未来を作るのか。もし、そこで可能性が分岐すれば、他の世界にも、『別のあたし』が生まれる可能性が高くなる! そうしたら、あたし、ヴォラールをやめられる! あたしは、あたしのままで、『人間』になれるの!!」
 ここまで離すつもりはなかったが、コルボーなら聞いてくれるような気がした。
 一瞬、沈痛な表情になったコルボーだが、また、芝居がかった身振り手振りで言った。
「おお! 考えてみたまえ! どこの世界に、このように芝居じみた仕草で、話をする女がいるだろうか!? 我は、ただ一人。唯一無二! だが、それは、同時に『孤独』であることをも意味する! しかし」
 と、その場でターンして、コルボーは笑顔を浮かべて、パピヨンを見た。
「そのような『根本』の形質を持った者は、決して揺らぎはしない。世界がどうなろうと、『その者』は『その者』。パピヨン、君は、君のまま、存在し続けることができる! きっとね」
 この女が、なぜ大げさな身振り手振りなのか。単なる趣味かと思ったが、どうやら、そうではないのかも知れない。
 存在についての観念論は、よくわからないし、そもそも「ヴォラールをやめたい」という、パピヨンの願いについて、コルボーの言葉は答えていない。
 だが、彼女がパピヨンを気遣ってくれているのがわかって、自然と口許に笑みが浮かんできた。まるで、感情を縛(いまし)めていた鎖がほどけたかのように。
「ありがとう、コルボー」
 だから、自然にこの言葉が出てきた。
 コルボーも頷いた。
「パピヨン、きっと君も存在は変わらない。そう! 君も、君のピンク色の花びらの如く、世界に咲くことができる!」
 大げさな仕草で、そんなことを言うコルボーの言葉に、嬉しくなって笑顔のまま、パピヨンは言った。
「……そうね。あたしも、花のように……。……って、ちょっと待って?」
 ある単語が引っかかった。
「『あたしのピンク色の花びら』って、その『たとえ』は一体、なんなの?」
 コルボーが、笑顔を引きつらせた。
 その表情に、パピヨンは朝方、タオルケットをめくったときに感じたことを口にした。
「なぜか、ショーツが、たたまれて別に置いてあったのよね。……何もしていないって、言ったわよね?」
 コルボーが冷や汗を浮かべた。
「き、君の花びらを愛でて、『蜜』を楽しんだが、『それ以上』のことは、『何もしていない』!」
 言うが早いか、コルボーの姿が消えた。どうやら、空間を盗んだらしい。
「……あの女、今度会ったら、ただじゃ、おかない!」
 いくら眠っていたとはいえ、「そのようなこと」をされたら、いくらなんでも気づくだろう、とパピヨンは思う。となると、コルボーは「導眠剤」かなにかのエッサンスをパピヨンに使ったのだろう。精神や身体に影響を及ぼす薬剤等のエッサンスは、近くでないと望むような効果を及ぼせないから、もしかすると、コルボーは意識のないパピヨンの口伝いにエッサンスを……。
 顔から火が出そうな思いで、立ち上がり、パピヨンは叫んだ。
「覚悟しときなさいよーッ!?」
 きっと、今の自分は、不機嫌を通り越して、怒りが顔に浮かんでいることだろう。


(パピヨンは、ご機嫌ななめ sept・了)


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アクセス: 2014