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作品名:パピヨンは、ご機嫌ななめ 作者:ジン 竜珠

第54回 sept−6
 午後三時頃だっただろうか。
 パピヨンは、街を歩いていて、時間と空間が盗まれたのを察知した。またシャット辺りが襲いに来たのかとも思ったが、そんな気配はない。
 だったら、わざわざ、関わり合いになる必要もないだろう。
 街を歩きながら、パピヨンは、目に付く限り、使えそうな、そして一見、使えそうもないもののエッサンスを盗んでいた。
 音が戻り、めぼしいエッサンスを盗んだ頃、パピヨンは市の南部、海面先の海水浴場まで来ていた。海開きともなれば、ここも賑わうのだろう。
 赤みを帯びた太陽光が照らす砂浜には、今、パピヨンただ一人だ。
 そう思いながら、しばらく海を眺めていると、いつもの赤いジャケットを着て、赤いタイトスカートをはいたコルボーがやって来た。
「やあ、パピヨン。メモ用紙に気づいてくれたようだね」
「……何の用? 言っておくけど、『トレゾー』を諦める気なんかないし、あんたの『もの』になる気もないから!」
 メモ用紙には、「午後五時、海面先にある海水浴場で話をしたい。強制はしない」と書いてあった。無視をしてもよかったが、介抱をしてもらった行きがかり上、義理を欠くのも気が引けた。
 コルボーは大げさに首を横に振る。
 そして、まるで、「本題に入る前に、適当な話でもしておこう」といった感じで、大げさな身振り手振りで言った。
「今、我は、新たな『縁(えにし)』のエッサンスを手に入れた! 学芸員というのも嫌いではなかったが、仕方のないこと。それに合わせて、我は、本名である『紅華(べにか)・ラスター』を名乗ることにした! パピヨン、君には、その名で呼んで欲しい。そして! 我にも、君のことを『煌(こう)』と呼ぶ権利を、与えてくれないか!?」
「……ごめんなさい、コルボー。時間がもったいないから、とっとと、本題に入ってくれる?」
 その言葉に、落胆したように、コルボーは息を漏らす。
 だが、切り替えたように、静かな声で言った。
「パピヨン。君の心に踏み込むつもりはないのだが。……昨夜(さくや)、君はベッドで眠りにあるとき、涙を流し、時折、呟くように何ごとか、寝言を口にしていた。もしよかったら、君の心の重荷を、『離』してみるつもりはないか?」
 その言葉で、理解した。
 コルボーは、本当にパピヨンのことを気遣ってくれている。
 あのセーフハウスでその話をしなかったのは、パピヨンが「日常の心」を取り戻す時間を作ってくれた、ということなのだろう。
 胸に温かいものが生まれる。
 そして、それを感じた瞬間、パピヨンは、口に出していた。
「あなたなら、わかるでしょ? あたしたちは、一応、存在はするけど、本質は『どこにも、いない存在』。だから、世界が融合に向かい始めたときから、その辻褄を合わせるために、存在が変わりそうになってく。だから、確実に存在する『誰か』のエッサンスを盗んで、『誰か』の振りをして、それがバレそうになったら、遠くへ行って、またエッサンスを盗んで。……意識的にヴォラールになって、四年ぐらいだけど、あたし、もう疲れちゃった」
 そして、服が汚れるのも構わず、砂浜に座り込む。
「だから」
 と言って、コルボーを見上げる。今から自分が話すことは、本来なら、言う必要のないことだろう。だが、もしかしたら、コルボーなら、わかってくれて、邪魔をしてこないかも知れない。ひょっとしたら、パピヨンに好意以上のものを持っているコルボーなら、手助け……例えば、シャットの妨害などをしてくれるかも知れない。
 そんな打算も、少し抱きながら、パピヨンは続けた。


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