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作品名:パピヨンは、ご機嫌ななめ 作者:ジン 竜珠

第53回 sept−5
 シャットは念装し、光の刃を出現させた。「あの技能」は、今、盗んだばかりだ。自分に馴染ませて実戦に使用するには、半日程度は必要だろう。
 シャットの剣を見て、ルーが片方の口の端を上げた。まるで笑みを浮かべるように。
「ほう? この街の剣技は、お主が盗んでいたか。ならば、そのエッサンス、放棄して、パピヨンに盗ませろ」
「……なにを言ってるのか、まるで意味がわからないけど、無理ね。この所有者、もう、この世にいないもの」
 それを聞き、ルーが嘆息した。
「貴様、また、そのようなことをしたのか。……そのようなことまでして手に入れた技能、必要がないとなれば、己がモノとして習得するでなく、ただ捨てる。もったいないとは、思わぬか?」
「思うわけないでしょ? あんたこそ、そんなに技能(スキル)ばっかり盗んで、何が楽しいの?」
 そう、シャットが知る限りだが、ルーが盗むトレゾーには、何らかの「技能」が多いような気がする。
 刀を構え、ルーが言った。
「せっかく、技能(わざ)を盗む力を授かったのだ。それを生かして己を高める。これほどの愉悦(ゆえつ)があろうか?」
 ルーの考えることが全くわからない。
 それとも、もしかしたら。
「……なるほど、それが、あんたの『運命の人』か」
 何らかの「技能」が「運命の人」。そんなバカなことはないと思うが、ひょっとしたら、そんなヴォラールもいるのかも知れない。
 そう思い、シャットは八相の構えをとった。ルーとの戦いは避けられない。
 次の瞬間、いきなりルーが目の前に現れた。かろうじて初撃を弾き、間合いをとる。今の感覚からして、空間を盗んだのではなく、ルーは自前の身体能力で間合いを詰めたのだ。
 今、この空間はルーに盗まれている。その中でシャットが空間を盗むのは、かなりの瞬発力と精神力が必要であった。パピヨンやコルボーは、それを(易々、とまではいかないが)自然にやってのける。だが、残念ながら、シャットには、そこまでの力はない。
 再び、ルーが打ち込んでくる。それをシャットは自動的に受け、流す。だが、それ以上ではない。
 もともとの剣の腕に加え、ルーはトレゾーとして盗んだ剣技や、盗んできた技を自分のものとしている。一方、シャットは盗んだ剣技の自動発動に任せているだけ。いわば、応用力がない。
 たちまちのうちに、追い詰められた。
 幸い、市内の歯科医で盗んだ笑気ガスのエッサンスは、まだ手元にある。隙を見て、これを相手に浴びせよう。
 そう思ったときだった。
 一瞬、ルーが、シャットから遠ざかった。
 この隙に相手の懐へ踏み込んで、笑気ガスのエッサンスを、と思った次の瞬間、腹に激痛が走った。何が起きたかわからなかったが、腹を見てわかった。
 刃を上に向けたルーの刀の切っ先が、シャットのへその左に突き刺さっているのだ。一瞬で、刀身の長さと腕の長さを計算して、相手が踏み込む間合いも計算して、体(たい)をかわしつつ動いたつもりだったのだが、目測を誤ったのだろうか? よく見ると、いかなる魔法か、六、七十センチ程度だった刀身が長くなっている。
 どうやら、バネか何かの仕組みで、スライド式にたたまれた茎(なかご)が飛び出す仕掛けになっているらしい。茎が飛び出した状態で相手を斬るのは実用的ではないが、虚を突くのには、有効だろう。
「お主のことだ、どのような『手』を使ってくるかわからぬでな」
 痛みで動けない。笑気ガスのエッサンスを放とうにも、間合いがありすぎる。
「殺しはせぬ。今日のところは警告だ」
 ルーがそのまま、刃を上へ向けて振り抜いた。
 ルーの刀が、へその左横から右の肉を斬り裂いて肩口へと抜けていく。その斬撃には、おそらくなんらかのエッサンスの力があったのだろう、アルミュールが消滅し、シャットは絶叫とともに倒れた。


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