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作品名:パピヨンは、ご機嫌ななめ 作者:ジン 竜珠

第50回 sept−2
おそらく、だが。
 事前に合い鍵を用意していたと思われること、展示室の警報装置の場所を把握していて、そのスイッチが切られていたこと、展示用ガラスケースを、何らかの工具で切断していること、指紋を残していないこと。
 これらの手口から見て、十日ほど前、館端市の西部エリア・白塔(はくとう)にある、小規模の美術館に侵入した窃盗犯は、広域指定「か−二百一号」であると思われる。もっとも、捜査本部は慎重で、他の部分で相違点が見られるため、この事件が「か−二百一号」であるとの結論は下していない。
 その相違点とは。
 この美術館では、盗まれたものは、価値の低い美術工芸品ばかりであること、さらに、窃盗に遭った三日後には、ブラックマーケットに出てきたこと。
 これまでの「か−二百一号」のケースでは、それなりに価値の高いものが盗まれ、さらに、最低でも二、三週間は経ってから、市場(しじょう)に出てきていた。
 だが、これらは気にするほどのことはないのかも知れない。
「あの美術館、窃盗に遭った夜の当直に当たっていた警備員の中に、唐隅(からすみ)直彦(なおひこ)の出身高校の同窓生がいるのよね。名前は山辺(やまべ)孝輔(こうすけ)」
 月曜日の午後二時、缶コーヒー片手に、資料を見ていた、鞠尾美砂子は、誰に言うともなく呟いた。
「やっぱ、クロですか、直彦って?」
 湯を注いだカップ麺の容器をテーブルに置きながら、水島(みずしま)刑事が言った。
「そうねえ。まだシロに近い灰色にすぎないってところかしら。これだけじゃ、弱いから」
 以前、気がついた点。つまり、唐隅直彦の前住所が供多實(ともたみ)市であること、戸籍で確認できた妹の紅花(べにか)の転出先が供多實市であること、三ヶ月前に館端市で起きた「か−二百一号」による窃盗において、警備員の一人が、かつて供多實市に住んでいたこと。
 この三点で「供多實市」というワードが共通していることから、美砂子は妙な「引っかかり」を覚えた。そこで、さらに調べてみた。供多實市に、唐隅紅花は住んでいた。本人には会えなかったが、学芸員をしているという。ただ、周辺の話を聞いてみると、容姿が、若干、違っているようだったが。
 また、今、隣の市に住んでいる例の元警備員は、かつて唐隅兄妹とは、離れた位置に住んでいた。だが、二ヶ月前、供多實市で被害に遭った骨董コレクターの邸宅と、三ヶ月前、館端市で被害に遭った古美術商の邸宅を警備していたのは、同じ警備会社なのだ。
 もし「か−二百一号」が大規模な組織だとしたら。詳しく調べないとわからないが、これまで被害に遭った邸宅、美術館等を警備していた警備会社、別々の会社だが、それらは、何らかの繋がりがあるかも知れない。
 そして唐隅直彦は、およそ三ヶ月前、山辺の口利きで、今の警備会社に就職したという。
 本当に、ただの「灰色」だが。
 確証を掴むためにも、背後関係をよく調べなければならない。
「でも」
 と、水島が言った。
「広域犯だったにせよ、違うにせよ、まだ、防犯カメラの映像の謎が残っていますよ?」
 美砂子は無言で頷いた。
 この事件(ヤマ)では、展示室には、一つだけだが、室内を見渡せる位置に防犯カメラが設置してあり、映像が記録されている。だが、その記録映像が、ところどころ、消去されているのだ。
 まず、閉館後、約二時間半後の、午後七時八分から、二分三十秒ほど。次に、午後八時八分から、二分十秒ほど。午後九時九分から同じく二分十秒ほど。その約一時間後の午後十時七分から三分ほど。そして午後十一時八分から二分四十秒ほど。翌日の午前〇時八分から一分五十秒ほど。最後が午前一時九分から三分間ほど。
 七回目の映像消去後、いきなり展示ケースが破損しているのが映っており、巡回に来た警備員が驚いているところが映っている。
 このことから、おそらく午前一時九分頃から十二分頃にかけて犯行は行われたものと思われるが。
「そんな短時間で、ケース破って、盗みを働くって、不可能ですよ」
「そうね」
「それに、この映像って、誰にも消去できるチャンスがあったんで、誰がやったともわからないんですよね? 警備員の誰も『そんなことしてない』って言い張ってるし、証拠もないから、そんなに追求できるわけでもないし」
「そうね」
「消去された時間をトータルすれば、十七、八分ぐらいありますけどね」
「そうね。……て、なんで、足すの?」
 水島の言葉に、美砂子がツッコむと、水島は、笑顔で事も無げに答えた。
「いや、ほら、なんかのトリックで、十七分ぐらいある消去映像を、分割して、配置したとか」
 溜息をつき、痛む頭を押さえながら、美砂子は言った。


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