小説&まんが投稿
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:パピヨンは、ご機嫌ななめ 作者:ジン 竜珠

第44回 six−3
 月曜日、朝。
 館端市の東部エリア・辰ヶ峰と北部エリア・水津実との境に山がある。
 この山に、午前七時五十分、沼田巡査部長がやって来た。館端署刑事課、強行犯係に所属する彼が呼ばれた、ということは、それなりに物騒な事件が起きたということだ。
「すまんな、せっかくの休憩中に」
 同じ館端署刑事課・強行犯係の森(もり)警部補が声をかける。沼田が三十二歳、森が四十五歳。一回り違うが、二人はウマが合った。
 辺りには鑑識や多くの捜査員がいる。
 場所は、雑木林の中の、斜面だ。この山にはハイキングコースがあるが、現場(げんじょう)はコースから離れている。ここへ向かう途中で聞いたところでは、山の持ち主にハイカーたちから、「変な臭いがする」という訴えがしばらく前から寄せられており、朝早くにやって来たところ、腐乱死体を発見した、ということだった。
「せっかくの家族の時間なのに、すまんな」
 そんな森の言葉に、沼田が手袋をはめながら答えた。
「かまいませんよ。うちの娘(こ)、まだ、寝てるか、泣いてるか、どっちかなんですから」
「お前、そんな時期こそ、大事なんだぞ? 中学校に上がってみろ、口きくどころか、顔も合わせてもらえなくなる」
「うちの麻美(まみ)ちゃんは、そうは、なりませんから」
「全国の男(おとこ)親(おや)が、そんな風に思うんだよ」
 森がそう言ったとき、鑑識の「富(とみ)さん」こと、富崎(とみさき)が二人のところにやって来た。
 森が言った。
「どうですか、富さん? もしかして、殺しですか?」
 富崎は、森よりも二つ年上である。
 その言葉に、富崎が首を傾げる。
「解剖してみんとわからんがな。野犬辺りが食い散らかしているせいで、判然とせんが、左の肋骨に切創(せっそう)らしき痕跡がある。サバイバルナイフなんかを、胸に力の限り突き刺せば、あんな感じの切創ができるだろうな」
 沼田が森を見る。
「警部補、それって、まさか!」
 森が頷いて、富崎に言った。
「刺殺、かも、ってことですか?」
「断言は、せんよ」
 沼田が、腕を組む。
「この間は、水津実の廃ビルで斬殺体、そして、今日は四件目の刺殺体。この街で、一体、何が起きてるんですか?」
「一件目かもしれんぞ?」
 富崎の言葉に、森と沼田が、富崎を見る。
 その視線を受け、富崎が、二つのビニルの証拠品袋を見せながら言った。
「腐敗状況から見て、おそらく一件目の私立探偵と、同じ頃に殺害されたんじゃないか? あと、これ。ホトケさんが持ってた免許証。もし本人のものだとすると、このホトケさん、高田(たかだ)満(みつる)ってことになる。……館端中央女子高校の、美術教師だ」
 その言葉に、森が首を傾げた。
「富さん、なんで、そんなこと知ってるんですか?」
「下の娘が、去年まで通ってたんだよ、館端中央女子に。娘は美術部に入っててな、その顧問だった。だとすると、この『モデル人形』も、ホトケさんの遺留品ってことになるな。あとな、森」
「はい」
 と、何か重要な話でもされるのかと思ったか、森が姿勢を正した。
「弥寿子(やすこ)ちゃん……娘さんも、大きくなったら、わかってくれる。それまで、頑張れ」
 激励と受け止めたかどうかわからないが、森は、きょとんとなって、沼田を見た。
 沼田は肩をそびやかすだけだった。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 小説&まんが投稿屋 トップページ
アクセス: 1499