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作品名:パピヨンは、ご機嫌ななめ 作者:ジン 竜珠

第38回 cinq−3
 日曜日、午前十一時。
 俺は、由梨と一緒に旗琳のデパート・グランマルシェに来ていた。
 ま、要するに由梨の買い物につきあってるってことなんだが。
 なぜか、川平も一緒なんだよな。
 旗琳のバス停で降りたら、たまたまこいつと出会って、自分もグランマルシェに行く用事があるからって言って、ついてきて。
 由梨も断ればいいのに、「一緒にウィンドウショッピングしよ?」なんて言ってやがる。二人の会話を聞いてて、その単語を拾っただけだから詳しいところまではわからねえが、金曜の夜、由梨のヤツ、塾の帰りに、道端で貧血起こして倒れてるところを、川平に介抱されたらしい。
 それで、スイーツの一つもおごる、みたいなことになってる。
 実は俺も、川平が一緒にいるのは、そんなに邪魔とは思ってない。ていうか、どこか嬉しい気持ちさえある。
 言っておくが、「両手に花だぜ、キャホウゥゥ!」なんてことは思ってないぞ、断じて!?
 なんていうかな、こいつと一緒にいるのが、楽しくなってるんだよ。こいつ、異世界人で、しかも犯罪者なのにな。

 グランマルシェ近くのオープンカフェで、俺はアイスカフェオレ、由梨はフルーツパフェ、川平はホットレモンティーにガトーショコラだ。
 ていうかさあ。
「お前ら、昼メシ前だぞ? なんで、そんなもの、食えンの?」
 俺の言葉に、由梨が、「え?」と、小首を傾げて言った。
「これ、お昼ご飯だけど?」
「……すまん、よく聞き取れなかったんだが。お前、今、何語で、なんて、言ったの?」
「これ、お昼だよ?」
 ……。
 どうやら、はっきりと日本語で「昼メシ」だと言ったらしい。
 俺は、川平を見た。
 川平は、バカにしたような笑いを浮かべていた。
「常識でしょ? まあ、あたしの場合、正確にはブランチなんだけど」
「いや、ブランチだとしたら、その量は少なすぎ」
 姉さんだって、昼は「麺類に限る」とかって、休みの日には大盛りのカップ麺とか、たまに食ってるぞ?
 世間の女子って、こういうモンなのか?
 ていうか、由梨、普段は、ちゃんとしたもの、食ってるよな? お前の弁当、どう見ても、「普通」だぞ?
 俺が悩んでいると、由梨が川平に言った。
「ねえ、川平さん。前の学校って、どんなだったの?」
 俺は、思わず由梨を見て、川平を見た。こいつ、異世界から来てるから、「転校」どころの次元の話じゃねえんだよな。
 ちょっとだけハラハラしながら見てると、川平は事もなげに言った。
「別に。普通の学校だったわよ? 私(わたくし)立(りつ)だったから、『特進(とくしん)コース』とかあって、勉強は割とハードだったけど、あとは、取り立てて珍しいところはないわ」
「共学だったの?」
「ええ。それなりに『告白』とかされたりしたわ」
 と、川平も笑顔で返す。
 まあ、転校してきたときに、クラスの連中からいろいろと話を聞かれてるから、それなりに「ストーリー」は作ってるだろうけど。……それだからこそ、どこかで矛盾とか出てきやしないかと、ドキドキしながら、俺は話を黙って聞いていた。
「……へえ、そうなんだ。結構、遠くの街に住んでたんだね。その辺りって、何か面白いスポットとかあったりした?」
 学校だけじゃなく、住居周辺のことにまで話がおよび始めた。川平のことだから、ちゃんとリサーチしてるか、「興味なかったから、よく知らない」みたいにごまかすんだろうな。
 ていうか、なんで、俺、こんなに気を揉んでるわけ? 川平が疑われようが、どうだろうが、関係ねえじゃん!
 ……そうか、俺、心配してるんだ。もしボロが出て、それがもとで川平がいなくなったら。こいつの狙いは、俺が十七歳の誕生日に手に入れる「トレゾー」とかいうものだそうだから、この世界からいなくなることはないだろうけど、もしかしたら、高校から姿を消すかも知れない。あるいは、俺が見ている範囲から姿を消してしまうかも知れない。
 それが嫌なんだ。
 間違いない。
 俺、由梨よりも、こいつのことが……。


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