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作品名:パピヨンは、ご機嫌ななめ 作者:ジン 竜珠

第36回 cinq−1
 自宅マンションで、熱いシャワーを浴びながら、パピヨンは、ルーとの話を思い出していた。

「ルー・アジュール……。どうして、あなたが……?」
 パピヨンの言葉に、ルーが低い声で答えた。
「パピヨン、『トレゾー』の所有者となる鞠尾和磨に注意を向けるあまり、当事者の片方である、吾妻由梨の身辺警護を怠るとは、何事か? ……この世界にいるのは、善人ばかりではない」
 ルーに抱きかかえられている由梨は「服を着ている」というより、「誰かが着せ直した」といったのが、特にスカートから乱雑にはみ出したブラウスの裾から、理解できた。
 それだけで、由梨に何が起きたのか、察することができた。
「案ずるな、コトが起きる前に、その男は斬り捨てた。吾妻由梨の記憶も、某(それがし)が会得した催眠術で封じてある。よほどのことがない限り、その記憶が出てくることはあるまい」
 月明かりでも、気絶していると思しき由梨の顔面には、生気のないのがわかる。どれほどの恐怖であったか、察するに余りある。
 重大事にならなかったことに安堵の溜息を漏らし、パピヨンは言った。
「ルー。あなた、なんで、こっちに? あなたがこの『トレゾー』に興味を抱くなんて、訳がわからないわ」
 パピヨンが知る限り、「あの人」はルーにとって、重要人物……有り体に言えば「運命の人」ではないはず。さらに、オカルトマニアなところがあるコルボーとも違う。
 だから、この女が「鞠尾和磨が愛した女のヴァージン」を必要とする理由が、想像できない。
 由梨を地面に、丁寧に寝かせながら、ルーが言った。
「某の興味の対象は、お主(ぬし)だ、パピヨン」
「……あなたって、そっちの性癖だったの?」
 思わず、後ずさる。コルボーに続き、そのような性癖の持ち主が、自分の前に現れたことに、少なからず、パピヨンはショックを受けた。
 パピヨンが持っている印象だが、このルー・アジュールというヴォラールは、ストイックなところがある人間だ。だから、その影でそのような性癖を隠し持っていたのは、驚きだった。
 低くくぐもったような笑い声を上げると、ルーは首を横に振った。
「勘違いをするな。お主は、飽くなき向上心を持っている。ある大学教授のエッサンスを盗んだときは、その知識が失われる前に、己自身が学習し、知識を身につけた。骨法の修行者の時は、やはり、それを返す前に己である程度まで習得した。某は、お主のその姿勢に、尊敬の念すら抱いている」
 褒められている、と考えていいのだろうか? だとすると、素直に喜んでいいのだろう。
「だから、思ったのだ。お主のことだ、剣技を盗むことがあれば、必ずやそれを修得(しゅうとく)するに違いないと。ならば、いずれ、某の、剣の相手になるであろう、と」
 そして、兜の下の目に強く真剣な光を宿しながら言った。
「某が、此度(こたび)の『トレゾー』争奪戦に加われば、お主は剣技を盗まざるを得ない。そうすれば、それを修得するは必定(ひつじょう)。……もう、わかるであろう?」
 このルーという女は、パピヨンが剣技を盗んで、会得し、剣士としての腕を磨くように仕向ける、そのためにこの「トレゾー」を狙っているのだ。そして、その理由はおそらく、パピヨンと剣で立ち会うことを、望んでのこと。
 それに思い至り、心底「迷惑だ」と思いながら、パピヨンは言った。
「あなた、そんなことのために、わざわざこっちに来たの!?」
 その言葉に、ルーが口もとに皮肉めいた笑みを浮かべた。
「ヴォラールとは、そういうものであろう?」


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アクセス: 2016