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作品名:パピヨンは、ご機嫌ななめ 作者:ジン 竜珠

第34回 quatre−7
 仮面をつけ、アルミュールをまとったパピヨンが刀を構える。
 その構えを見て、まだパピヨンが技能を使いこなせないことを見破ったのだろう。シャットが口もとを歪めて笑う。
 そして、距離を盗み、刀を打ち下ろしてきた。それを受け、払うが、シャットの動きには無駄がない。やはり、パピヨンより早く剣技を盗んでいたシャットの方が、技能が馴染んでいる。意識せずとも、自動的に体が動いているのだ。
 だが、そこにこそ、勝機がある。
 シャットが、振り下ろした刀をすくい上げるようにして、パピヨンの足を打とうとする。それをどうにか、かわすが、執拗なまでに足を狙ってくる。もしかすると直心影流(じきしんかげりゅう)にある手の一つかも知れないが、足を狙うと見せかけて、上体に打ち込むつもりかも知れない。
 そう思っていたら、不意に、シャットの刀が、跳ね上がってきた。その刃を受けきれず、刃を弾かれ、パピヨンは刀を投げ捨てさせられた。
 その隙を逃さぬように、シャットが刀を打ち下ろしてきた。
 だが、その隙を生かしたのは、パピヨンの方だった。懐に飛び込み、正確に、シャットの鳩尾(みぞおち)に拳(こぶし)を打ち込む。
 よろめいたシャットに追い打ちをかけるように、パピヨンは身を回転させて、シャットの右側に体を移動させ、その回転を利用して、大きく右脚を振り上げる。頭を下げ、それを振り子の重しのようにして、一気に右脚をシャットの後頭部へとまわし、踵(かかと)をシャットの後ろ頭へ撃ち込んだ!
 声もなく、シャットがうつぶせに倒れる。数秒後、シャットが起き上がるが、かなりのダメージがいっているらしく、その動きはおぼつかない。
 今、パピヨンが放ったのは、以前盗んだ際に、習得しておいた「骨法(こっぽう)」という古流(こりゅう)拳法(けんぽう)の「刈(か)り蹴(げ)り」という技だ。もっとも、その威力はあくまで今の彼女の身体能力、そして技術に応じたものでしかない。だが、本来の刈り蹴りは、一撃で相手を殺すことさえできる技。おそらく、こちらでは、半日程度、安静を必要とするダメージは与えられているだろう。いくら、アルミュールがダメージなどを「盗み取る」能力を持っているとはいえ、限度がある。致命的なものであったなら、やはり、それなりのダメージが本人に行く。
「さて。どうする、シャット? 回復するまで、待ってあげようか?」
 笑いがこみ上げてくるのを抑え、パピヨンは言った。

 剣(けん)を持っては、刃(やいば)となり、
 剣を捨てれば、拳(けん)となる。

 己の体そのものを武器とするのが、天然理心流の強みだ。
 つまり、体術を習得しているパピヨンにお似合いの剣術といえる。
 よろめきながら、パピヨンを睨むと、ガラスの割れるような音とともに、シャットの姿が消えた。
「……まさか、これが『パターン』になるんじゃないでしょうねえ?」
 溜息をつきながら、パピヨンは言った。
 襲いかかってきたシャットをパピヨンがあしらって、退散させる。それはそれで面白いかも知れないが、シャットもバカではない。油断はできない。
 やがて、音が戻ってきた。
 仮面を外し、念装を解いた瞬間、ある言葉が、脳裏に浮かんできた。
「……そう言えば、シャットのヤツ、変なことを言ってたわね? 『心を盗む』とか『趣味はない』とか」
 意味がわからない。
「まあ、変人の言うことだしね」
 そう呟いた瞬間、妙な胸騒ぎがした。
 かつてあるトレゾーを狙っていたときに感じたのと、同じタイプの「ざわめき」だ。
 その時は、トレゾーの主(ぬし)が命の危機に陥っていた。ヴォラールは、狙ったトレゾーと、何らかの「繋がり」ができる。だから、百パーセントではないが、そのトレゾーの危機を察知できる。その反面で、ヴォラールはそのトレゾーから、あまり離れたところへ行くことができない。トレゾーを護り、手に入れるための、これは、ある種の強制事項なのだ。
 つまるところ、トレゾーに、ある程度、移動範囲が縛られている。
 それはともかくも。
 この感覚は、おそらく吾妻由梨に何らかの危機が迫っている!
 ここで由梨の身に万が一のことがあって、あの「トレゾー」が手に入らなかったら、また、アカシックレコードを検索する作業に追われることになる。
 せっかく見つけた、文字通りの「運命の人」なのだ。絶対に結ばれたい。
 パピヨンは走り出した。位置が正確にわかったら、空間を盗もう。そう思いながら。


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