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作品名:パピヨンは、ご機嫌ななめ 作者:ジン 竜珠

第31回 quatre−4
「ややこしいことになってるわねえ。わからない、覚えがない、影だった。……こんなふざけた事件、初めてだわ」
 やはり、「この件」については、無視した方がいいだろう。あの「妹」と称する人物が何ものであろうと、目の前の事件とは、おそらく直接の繋がりはない。それに関連して、例の「黒い影」「赤い影」も、広域犯とは、無関係だろう。
 自動販売機の前でミルクコーヒーを飲んでいると、ある一人の男性刑事が自動販売機の前に来た。
「ああ、鞠尾さん、県警からお戻りになってたんですか」
 財布からコインを出しながら、美砂子に気づいたらしい、その刑事が言った。
「ええ。もしかして、そっちは完徹だったの?」
 刑事の表情を見た美砂子も言った。
 それに頷くと、館端署刑事課、強行犯係の沼田(ぬまた)巡査部長がコーヒーを取り出しながら答えた。
「いや、もう、訳がわからなくて」
「そちらも?」
「え? なんですか、そちらも、って?」
「ああ、なんでもないわ」
 赤い影とそれに関わることに対して、訳がわからない、と思っていたからだろう、つい「そちらも」と口走ってしまった。
「何か、ややこしい事件でも起きた?」
 美砂子がそう言うと、沼田が言った。
「二日前、刺殺されたらしい、身元不明の女性の御(ご)遺(い)体(たい)が上がりましてね。ちょっと腐乱してて、おまけにそれらしい遺留物もない」
「そういえば、先週も、二人ほど、刺殺体が上がったんだっけ?」
 美砂子は盗犯係だが、同じ署内だ、どんな事件が起きて、捜査の進捗状況がどうなっているかぐらい、把握している。
 頷き、コーヒーのペットボトル、そのふたをねじ切りながら沼田が言った。
「今回の御遺体、歯の治療痕から、ある人物が浮かんだんですが、その人物、生きてるんですよ。本人確認に行ってきたんで、間違いないです。免許証とか、履歴書とかの、各種写真と顔も一致しますし」
「……なに、それ?」
 ある人物と歯の治療痕が完全に一致する他人は、まずいない。それが一致するということは、かなりの、それこそ天文学的確率の出来事が起こったということ。
「市内の高校に勤めてる、白根(しろね)香澄恵(こずえ)っていう先生なんですけどね」
「……え? 白根先生なの?」
「あれ? ご存知ですか?」
「ええ。息子のクラス担任よ、その人」
「そうですか」
 そう言って、沼田はコーヒーを一口含む。
 ちょっとした驚きを、美砂子は覚えた。
 警察に勤めている関係上、知り合った人たちの意外な面を見ることは多かった。おとなしそうに見えて粗暴、大雑把に見えて実は執念深いといったことはザラ。つい数時間前まで元気だったのに、薬物中毒で急死、調べたら、真面目そうに見えて、実は薬物に依存(いそん)していたということさえある。
 だが、息子が通う学校の教師が、生きているのに御遺体扱いされるなど、初めてだ。
 コーヒーを飲み下し、沼田は言った。
「そう言えば、この間から見つかってる御遺体、二件とも、その白根っていう人と、何かしら、繋がりがあるんですよ」
「……なに、それ?」


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