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作品名:パピヨンは、ご機嫌ななめ 作者:ジン 竜珠

第30回 quatre−3
 鞠尾美砂子が館端署に戻ってきて、自分のデスクにゆっくりと腰を落ち着けたのは、先週の金曜日以来だ。昨日、館端市立博物館で警備員をしている唐隅(からすみ)直彦(なおひこ)に聞き込んだ証言は、まったく要領を得ないものだった。

 直彦が住んでいるというマンションへ行くと、三十代前半と思しき直彦は、疲労困憊した様子で現れた。
 本人曰く「立ちくらみが起き続けていて、しかも、思考能力とか、脳の活動が奪われたかのように、何事にも集中できない」とのこと。
「お巡りさんにもお話をしたんですが。『赤い影』だった、としか。あと、はっきりと見えたわけじゃないんですが、なんとなく『鳥』……『カラス』っていう印象がありました」
「そうですか。……つかぬことをお伺いしますが。妹さん……紅花(べにか)さんについて、少々、よろしいですか?」
 直彦の妹だという、あの紅花という女性に、美砂子はある種の「引っかかり」を覚えていた。
 直感、といったものではない。
 以前、行った調査で、その存在が確認できなかったからだ。
 もっとも、戸籍を徹底的に調べたものではないから、どこかの時点で新戸籍を作っていれば、確認できていないし、それ以前に、何らかの被疑者というわけではないので、住民票までは見ていない。周辺の捜査も、ある種、人となりや、生活態度を確認したものでしかない。
 そもそも実際に窃盗が行われたわけではなく、それどころか非現住建造物侵入といった犯罪が成立する可能性さえないので、前回の捜査では通り一遍のことしか行っていないのだ。
 有り体に言えば「『黒い影』が博物館の防犯カメラに写っていた」という都市伝説として片付けられるような事案なのだ。
 一応、画像解析なども行ったが、結局「影」についてはその正体はつかめなかった。警察としても、実際の被害があるわけではなく、また、被害届や告訴があったわけではないので、刑法事案として動くことさえできない。
 だが、今回のことは違う。実際に目撃者が現れたのだ、
 といっても、その目撃例も、やはり都市伝説の域を出ないが、今、館端署が追っている窃盗犯が広域指定されている窃盗犯である以上、発生時期を同じくする事案を、無視することもできない。
 だから、今回、念のため、そして「引っかかり」を覚える「唐隅紅花」について近所を聞き込んで回ったが、そのどれもが訳のわからないものだった。
 いわく。
「確かに、妹さんがいて、一緒に住んでるような感じはあるけど、一緒に『生活』しているところを見たことがない」
 いわく。
「妹さんを見かけたことがあるけど、夢のような感じがして、はっきりと覚えてない」
 とにかく、「変」の一言に尽きる。
 だが、そのことと今、自分たちが追っている広域指定「か−二百一号」と関係があるとは思えない。
 思えないが、やはり何か「引っかかり」が残る。


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