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作品名:パピヨンは、ご機嫌ななめ 作者:ジン 竜珠

第25回 trois−10
 すかさず、ある「エッサンス」を放り込む。
 水面から顔を上げたシャットだったが。
「あんた、ホントにバカね! 『猫』だから水に放り込めばいいなんて、なんて、短絡的……!? 熱(アツ)ッ!!」
 嘲笑から一転、一声上げて、池から出ようとした。しかし、すでにジャンプして高空にいたパピヨンが、落下エネルギーと体重をかけて、シャットを、再び、池に沈める。
 今、パピヨンが放り込んだのは、園芸店で盗んでおいた石灰肥料の「エッサンス」だ。中には、生石灰(せいせっかい)が含まれている。生石灰が水を含むと、高熱を発するのは、有名な話だ。
「これだけの量だもの、すぐに熱湯になるわね。とりあえず、なんでも盗んでおくものだわ」
 何に使えるかわからないから、いろいろと盗んでおいた。木工用のパテや、乾燥剤、どう考えても、発光ダイオードにしか使えないようなガリウムなど。そんな中に、園芸用の石灰肥料があったのだ。
「こういうのも、備えあれば憂いなし、ていうのかしら?」
 そう呟いて、またジャンプし、パピヨンは池の外に出る。
 確かに、彼女たちを支配する時間法則は違う。だから、ちょっとの傷ならすぐに回復する。
 だが、仮に、こちら側で丸一日、思うように動けないほどのダメージを負ったら?
 単純計算で、十数分間、動けないことになる。
「それだけあったら、再起不能にできるわね」
 愉快な気持ちがわき起こるのを感じながら、パピヨンは池に近づいた。しかし。
「いない……!?」
 シャットの姿がなくなっていた。
 慌てて辺りを見回すと、学校の正門の外に、防犯灯に照らされた一人の女がいた。その女は、一糸まとわぬ姿で、髪も濡れていた。そして、白い肌のところどころが、赤くなっていた。
 女……シャットが、肩で息をしながら、鬼気迫る表情で、憎々しげに言った。
「今日のところは、このぐらいにしといてあげるわ!」
「ねえ、ちょっと聞くんだけど。その格好で帰るの?」
「うるさいわね! 熱を盗み取ったアルミュールなんか、まとってられないわよ!」
 笑いがこみ上げてくるのをこらえながら、なおもパピヨンは言う。
「だからさ? すっぽんぽんで道を歩いて帰るの? あんた、そういう趣味なの?」
「体が痛くて、服なんて着てられるか! アソコだって、ヒリヒリするし! なんかあったら、責任、とんなさいよね!!」
「わかったわよ。責任とって、あたしが『あの人』と結婚して、責任とって、あたしが『あの人』の子ども、産むから!」
 その言葉に、凄まじい顔でパピヨンを睨むと、ガラスが割れるような音を残して、シャットは姿を消した。
「あの格好で道を歩いて帰ったら、誰かに通報されるわね。まあ、周囲の『ひとけ』は盗むでしょうけど」
 そして、ひとしきり、笑う。
 音が戻ってきた。
 その時、別の気配があることに気づいた。そちらを見ると、赤い上着を着て、赤いタイトスカートをはいた長髪の眼鏡の女が、三メートルほど先にいた。
「コルボー・ルージュ」
 その人物を見て、パピヨンは呟いた。敵意を剥き出しにして。
 赤い服の女……コルボーが大げさな身振り手振りで言った。
「やあ、愛(いと)しのパピヨン。今宵も君は麗しい」
「あんた、何しに来たの?」
 シャットとの戦いのダメージはそれほどでもないが、連戦は勘弁願いたい。そう思っていたら、コルボーが大げさに首を振る。
「君が困っているんじゃないかと思って、こうして馳せ参じたのに、我の厚意をわかってもらえないとは」
「……うるさいわよ」
 コルボーの視線には、いつものように、まとわりつくような粘液質なものがある。


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