小説&まんが投稿
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:パピヨンは、ご機嫌ななめ 作者:ジン 竜珠

第14回 deux−5
「あなたが、高校(ここ)にいたとはね、シャット・ブラン」
 時間と空間を盗み、パピヨンは廊下で白根香澄恵と、否、シャット・ブランと対峙していた。
「あなたが、こっちにいるための『エッサンス』を手に入れるために、何人か殺したのは知ってたけど、白根先生もいたとは思わなかったわ。……『死の臭い』が、こびりついてるわよ、あなた」
 今の言葉には、憎悪がこもっていたと、パピヨンも自覚している。シャットは薄ら笑いを浮かべている。
 このシャットは、美人だと、パピヨンも思う。だが、その美には、冷たいものしかない。
「だって」
 と、シャットが言った。
「わたしたち『ヴォラール』が、盗んで自分のものにしていいのは、トレゾーだけ。ほかのものは、返さないとならない。盗んで、返して、また盗んで、なんて、めんどくさいじゃない? だったら、『エッサンス』の主(ぬし)を殺して、『誰のものでもない』状態にすれば、楽でしょ? 拾っても持ち主がいないんだから」
「あたしが吾妻さんにしたように、『エッサンス』を『借りる』っていう方法もあるのよ? 毎晩、意識に侵入する『手続き』が面倒だけど、『同調』するから、すぐに『理解』して使いこなすことができるし」
「バカじゃないの、あんた? ヴォラールが盗みを働かないなんて、おかしいでしょ?」
 それはもっともではあるが、譲れない矜恃(きょうじ)もある。
「それにさ、パピヨン?」
 と、シャットが見下したような笑みを浮かべる。
「あんた、最初は、『きわどいこと』を考えてたんじゃないの? だから、吾妻由梨の『エッサンス』を借りたんじゃないの?」
 痛いところを突かれた。だが、それをおくびにも出さず、パピヨンは一言だけ答えた。
「さあ?」
 鼻で嗤(わら)い、シャットが言った。
「まあ、いいわ。わたしとあんたが狙うものは一緒。また、ぶつかることもあるでしょ。……そろそろ、時間と空間、返さないとね」
 その言葉を合図に、音が戻ってきた。

 なんていうか。
 とりあえず、日中は平穏無事だったんだが。
「だからさ、なんで、白塔の博物館に忍び込まないとならねえの?」
 夜の十一時。博物館の前で、俺は川平にボヤいた。
 ボヤくぐらいなら、最初から行動をともにするな、ってことなんだが。
 なんか、こいつといろいろと行動をともにするのが、俺、嬉しいんだ。
 昨日、見たときのように、川平は羽を広げた蝶のような仮面をつけ、黒いライダースーツみたいな服を着てる。
「詳しいことはややこしいから、簡単に言うと。あたしたちって、盗んで自分のものにしていいのは、『トレゾー』だと指定されたものだけなの。ほかのものは、盗んでも、一定期間が過ぎたら、返さなきゃならない。この前、ここで魔導書の『エッサンス』を盗んだから、今夜はそれを返しに来たの。また使うこともあるだろうけど、『キャパ』に、ゆとりが欲しいし。魔導書って、結構『重い』のよね」
 と、わけのわからんことをのたまう川平。
「……なんか、ややこしいんだな、お前ら」
 盗んだものを返す泥棒とか、有り得ないと思うけど?
 そう思っていたら、不意に、川平が電柱の陰に身を隠した。つられて、俺もその後ろに隠れる。
「どうしたんだよ?」
 小声でそう言うと、川平が険しい目つきで、何かを見ていた。
 俺もその方を見る。
「あ? なんだ、あれ?」
 とりあえず、防犯灯に照らされて、赤い服を着た人影があるのが見える。でも、なんか、普通の人間と感じが違う。たとえて言うと。
 そう、川平とか、白根先生になりすましているという、シャットってやつのような感じだ。
「隠れることはない! 今宵(こよい)、ここに我(われ)がいるは、ある『エッサンス』を盗まんがため! 君と剣を交えるためではない、パピヨン!」
 大げさな身振り手振りで、そいつが言った。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 小説&まんが投稿屋 トップページ
アクセス: 1313