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作品名:今日も杏とて。継 伍之章 作者:ジン 竜珠

最終回 伍之章・参
 でも、彼女が何を言いたいのか、わかってきた。
 私の病気の治療には、選択肢がある。そのうち、いくつかを選ぶことができた。そして、選んで実行した。
 でも、再発を防げなかった。
 彼女が、私の病気のことまで知っているとは思えない。だから、多分、一般論として言っているんだろう。
「せやから。あんさんにも、諦めて欲しゅうないんです! 必ず、救われる道があるはず!」
 ……いい子なんだなあ、この子。
 どう言ったらいいのか、私の中に迷いみたいなものが生まれた。
 だから、少し時間をかけて、考えて、そして、あることに気がついた。
 どうして、ここに来るまで、すごくしんどかったのか。どうして、誰にも見られなかったのか。
 そして、大事なことをすべて書き記したと思い至ったとき、私の体が軽くなっていることにも気がついた。
 だから、まるで波のない、静かな水面のような心境で言った。
「あなたの気持ち、とても嬉しい。でもね? 今、私、不思議なくらい、澄んだ気持ちなの。だから、この心のまま、逝かせて?」

 杏は、階段を降り、エレベーター室まで行った。
 一台のエレベーターの前に、事務所の制服姿の、珠璃がいる。
「珠璃はん……」
 杏の言葉に、珠璃が首を横に振る。
「たった今……」
「……そう、ですか……」
 杏は天井を見上げた。
 もう、気配はない。
 涙が溢れてきた。
「珠璃はん、竜輝はんやったら、どうにかできましたやろか?」
 むなしい心で、杏は珠璃を見た。
「……そうですね。十種の神寶(かむたから)の『力』を手に入れた竜輝なら、『生玉(いくたま)』の『力』で生命力を補い、『道返玉(ちがえしのたま)』の『力』で、生きる道へと返し、黄泉路(よみじ)への道を遮ることができたでしょう。そうすれば、いくばくかの時間を稼ぐことは、できたと思います。でも」
 と、珠璃が厳しい目つきで杏を見た。
「そんな『力』を手に入れたからこそ、竜輝は、その『力』を使うことはなかったと思います。人の生き死にに、直接、干渉できるのは、神さまだけですから」
「……せやなあ」
「……失礼な言い方になりますけど。『もしかしたら、生きる希望を与えられれば、救えたかも』。そういう考え方は、驕りなんじゃないでしょうか?」
 杏に、そんなつもりはない。
 だが、自分ならもしかしたら、できたかも知れないという気持ちはどこかにあっただろう。
「ボクたちは、一介の修行者に過ぎないんです」
 珠璃の言葉が、杏の胸に突き刺さった。
 自分はこれまで、有縁(うえん)の人々を救ってきたつもりだった。
 だが、本当に救えてきたのだろうか?
 これまで、自分は「相手の『奥底にある何か』に訴える」つもりで、ただ単に責任を逃れてきただけではないのか?
 気がつくと、珠璃もいたたまれないような表情で、杏を見ていた。
「珠璃はん、ウチ、本当に他人様(ひとさま)を、お救いしてこられたんやろか?」
 力のない杏の言葉に、珠璃は、沈痛な表情のまま、何も答えなかった。


(今日も杏とて。継 伍之章 了)


あとがき:陰鬱な話でゴメンなさい。実は、「私」の病気については、当初、明確な病名を設定していました。しかし「死にゆく病」というイメージで描くのはよくないと思い、その名前は描写しないことに。で、「架空の病気をデッチ上げよう」とか思ったりもしたんですが、なんか、世界観にそぐわないので、それもボツ。結果的に「なんなんだ、これ?」みたいなものになってしまいました。申し訳ない。
 あと、二回で、今シーズンの終了です。ラストまで、おつきあいのほどを。


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