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作品名:今日も杏とて。継 伍之章 作者:ジン 竜珠

第2回 伍之章・弐
 心臓が止まるかと思った。
 なんで、この子には、私の考えていることがわかるんだろう?
 でも、と思い直した。
 ここは病院だ。
 しかも私はすこぶる調子が悪い。ここまで、それこそ這うようにしてやってきた。その様子を見れば、すぐにわかることだ。
 私が「生きること」を諦めてるって。
 だから、私は適当に流すことにした。
「ええ、そうよ。人間、いつかは死ぬんだもの。そんな覚悟の一つや二つ、持ってるわ」
「せやのうて!」
 女の子が、ちょっといらだった風に言った。
「ウチが言うとるのは、あんさん、自分の病気に絶望しとるんやないか、いうことです!」
 どこか、必死なものを感じる。
 それを見て、なんとなく伝わってしまった。彼女の気遣いみたいのものがわかって、ちょっと心が温かくなった。
 自然に笑みが浮かぶのを感じながら、私は言った。
「そうね。私、もう、助からないもの。だから、死ぬのを前提にしてるっていうのは、正しいかな?」
 すると、女の子が言った。
「余計なお世話かも知れまへんけど」
 その目は真剣だ。
「何があろうと、最後まで諦めん、生きて生きて、生き抜くのが、人間のつとめ、なんと違いますやろか?」
 彼女は、何かの宗教にでも、はまってるのだろうか?
 それはともかくも、確かに、彼女の言うことは正しいのだろう。
 ただし、一般論としては。
 私は、言葉を選びながら言った。やっぱり、気遣いしてくれる人を傷つけたくない。いくら病気で苦しいから、って、心が醜い人間には、なりたくないし。
「あなたの気持ちは嬉しいわ。でもね? どうにもならないことっていうものも、世の中にはあるの。例えば、いつ、どこでどうなるのかわからないのが、人間の命。だったら、今、こんな風に覚悟を決める時間をもらえてるのって、とっても素晴らしいことだって思えるの。何を残していくべきなのか、それを考える時間って、とっても貴重なのよ」
 彼女が哀しそうな目になった。そして、まるで、絞り出すように言った。
「それは……。ウチにもわかるつもりです。せやけどな? 最後の瞬間まで、『生きる』いう覚悟を持つのも、選択肢の一つや、ありまへんか?」
 どうして、彼女が見ず知らずの私に対して、ここまで真剣になってくれてるのか、さっぱりわからないけど、もし、この子が本気で私を気遣ってくれてるのなら。
 私は、真剣に応えなければならない。
「……そうね。私も、生きられるのなら、そうしたい。でも、もし、それがかなわないものなら。『何か』ができるうちに、『何か』をしておきたいの。悔いを残したくない。それもまた、『生き抜くこと』なんじゃないかしら?」
 女の子が、下唇を噛んだ。
 私は、空を見上げた。
「ステキな青空よねえ。こうして見てると、吸い込まれるっていうより、落っこちていきそうになるなあ。……変な喩えよね、『空に落ちる』なんて。でも、まさに、そんな感じ」
「……」
 女の子も、一緒に空を見上げた。でも、それは私に合わせて、っていうんじゃない気がする。
「私の勘違いだったら、ごめんね? あなた、何となくなんだけど、もしかして、生き死にに関わるような出来事とかあった?」
 本当に感じたままだ。この子、自分自身の生死に関わるような出来事を体験したんじゃないだろうか? だから、死を覚悟した人間の心の動きに、敏感なんじゃないだろうか?
 女の子は黙って、こっちを見た。その瞳から、一筋、涙が流れ落ちた。
「詳しことは、申せまへん。ウチ、死にそうな目ェに遭(お)うたこと、あります。ウチだけやのうて、ウチの知り人も、そういう目に、遭うてます。せやけど、最後まで諦めたりはしまへんでした。その知り人のうち、お二人ほどは、途中で諦めてもうて、せやから、ウチ、全力でお助けさしてもろうて。変な自己犠牲に走ったのを思い出したときは、しばき倒したいん、こらえて、お説教さしてもろうて」
 ?
 何言ってるのか、さっぱりわからないんだけど?


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