小説&まんが投稿
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:今日も杏とて。継 特傳之壱 作者:ジン 竜珠

第4回 特傳之壱・肆
 市電とバスで、トータル約三十分。結局、千京市を出て、北隣の葦河市に入った。
 なるほど。隣の市だったか。それじゃあ、「千京市内」で検索しても出てこねえわけだ。
 まあ、道中、駒沢といろいろとお喋りしてたから、退屈はしなかったし。ていうか、なんだか、駒沢、楽しそうだな。こいつとは、二年の時に同じクラスではあったが、そんなに友だちづきあいしてたわけじゃなかったし。いろいろと話して、こいつのことがちょっとわかったな。例えば、絵を描くのが好きで、美大に入りたかったとか。
 ……なんで過去形なのか、ちょっと気になるところではあるんだが。
「オーロラ」が見えてきた頃、杏さんから電話があった。
『申し訳ありまへん、竜輝はん! ちょっとしたゴタゴタがありましてなあ、今、駅に来たとこや! もしかして、お家(うち)に帰らはったかなあ?』
「いえ、もうすぐ、喫茶店に着く頃です」
 俺は、そう答えた。聞きようによっては、怒っているようにとられるかも知れない言葉だが、別に怒っちゃいない。誰にだって、不測の事態は起きるものだからな。俺の言葉のニュアンスも伝わっただろう。
 事実、杏さんも穏やかな声だ。
『そうですか。……そうか、行き違いに、なってんなあ』
「じゃあ、待ってますので。……ああ、『オーロラ』って、葦河市でしたよね?」
 一応、確認しておこう。断っておくが、「あなた、場所を勘違いしてたでしょ」と、相手を責めるつもりは、さらさらない。
『へ? 「オーロラ」? 竜輝はん、一体、なんですのん、それ?』
「え? なに、って、姉貴と珠璃が来るっていう喫茶店ですけど?」
 なんだ、この人、何を言ってるんだ?
『竜輝はん、胡桃姐さんたちがお見えになるんは、暮満の「やじろべえ」いう喫茶店ですけど?』
「……は?」
 なんだか、おかしな方向に流れやがったぞ?

『せやから、「やじろべえ」や、て、ウチ言うたで?』
「いや、『オーロラ』って、あなた、言いましたよ?」
『……』
「……」
『ウチ、暮満、て、ゆんべ、確かに言いましたけど?』
「ええ、確かに、杏さん、暮満、って言いましたよ?」
『……』
「……」
『せやから「やじろべえ」て』
「ですから『オーロラ』って」
『……』
「……」

 なんてこった。杏さんは「やじろべえ」のつもりで、「オーロラ」って言ったのか。
 なんか、腰から脱力していく感じだ。
 杏さんが通話口で溜息をつくのがわかった。
『どうやら、ウチ、何かを勘違いしてたようですなあ。申し訳ありまへん』
「いえ。仕方ないです。多分、『オーロラ』絡みで何かが視えて、それが混ざったんでしょうし」
 この人が、どういう感じで予知をして、複数の予知をどういう風に関連づけて、どういう風に情報を分析しているのか、わからねえけど、多分、複数の情報が混乱したのかも知れねえな。
 杏さんが申し訳なさそうに言った。
『そしたら、今回はウチが一人で、情報収集して、竜輝はんにお伝えします』
 ちょっと気落ちした気配が感じられる。だから、俺は言った。
「気にしないでください。それじゃあ、すみませんけど、姉貴たちの話、聞いといてくれますか? 俺のことは気にしないで。適当に時間とか、潰しますんで」
 その言葉に、杏さんが嬉しそうに応えた。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 小説&まんが投稿屋 トップページ
アクセス: 145