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作品名:今日も杏とて。継 特傳之壱 作者:ジン 竜珠

第3回 特傳之壱・参
 翌朝。
 俺は東品浦で市電を降りたんだが、杏さんの姿がない。
 時間は午前九時十三分。あの人のことだから、早めに来てて、時間に遅れるなんて、ないと思うんだが?
 まあ、ちょっと待ってみようか。
 ……なんて思ってたら、九時半。いくらなんでも遅い。
 普通なら「十分ぐらいの遅刻、気にすることないんじゃねえの?」ってところだろうが、俺たちは道士だ。しかも、彼女の予知能力はとんでもねえレベル。確かに彼女が視る未来は「確実にそうなる」ってものじゃないそうだが、それでもかなりの高確率で、そうなってる。だから、例えば交通事情の突発的トラブルなど、何らかのトラブルが視えた場合、それを防ぐことができなくても、避けることはできる。
 要するに、彼女が遅刻するっていうのは、よっぽどのことなのだ。
 俺は連絡を取ろうと、携帯を出した。その時。
「天宮くん」
 と、俺を呼ぶ声がした。
 その方を見ると。
「駒沢(こまざわ)か。どうした?」
 二年の時、同じクラスだった駒沢(こまざわ)花月(かづき)がいた。
「ちょっと、お買い物があって。……天宮くんは?」
 おずおずって感じで、駒沢が俺に聞いた。
「ああ。ちょっと人と待ち合わせをしててさ」
「待ち合わせ?」
「ああ。暮満の『オーロラ』っていう喫茶店に行きたいんだけど、俺、その場所、知らなくてさ。案内してもらうことになってるんだ」
 俺の言葉に、駒沢がちょっと首を傾げる。
「私、暮満に住んでるけど、『オーロラ』なんて喫茶店、見たことないわよ?」
「え? そうなのか?」
 駒沢が頷く。
「一口に暮満って言っても広いから、絶対ない、とは断言できないけど、少なくとも、私の知る限りじゃあ、ないかなあ、そんなお店」
 これは、いよいよ確認しないと。
 俺は携帯で杏さんに電話をかけた。
 電源を切っているらしく、繋がらない。
 となると。
 念話……ある種のテレパシーだ……か。
 俺は意識を集中した。しかし。
「……杏さん、何かに集中してるのか?」
 相手が何かに集中している場合、念話が成立しないことが多い。実は強制的に割り込むこともできるんだが、状況によっては、例えば何らかの儀式中のところを邪魔してしまうことにもなりかねないから、うかつなことはできねえ。念のため、遠隔透視をかけてみたが、どういう事情なのか、杏さんが視えない。
 これは杏さん自身が、自分にある種の結界を張っているとしか思えない。
 なんでそんなことをしているか、っていうのは、正直、わからねえ。
 唯一、杏さんがそんなことをしている理由があるとすれば。
 すでに姉貴か珠璃かが傍にいて、気づかれないように結界を張っている、ってところか。
 式神を送ってもいいが、人目が多すぎるな。霊的なものではあるんだが、小声でも、それなりに「咒」を唱えたりしないとならないし、場合によっては印契(いんげい)も結ぶ必要もある。
 俺が天宮流神仙道の道士だっていうのは、やっぱり秘密にしとかねえとな。
 どうしたものかと思っていたら、駒沢が言った。
「確か、北斗(ほくと)の方になら、『オーロラ』っていう喫茶店があるけど?」
「え? 北斗に?」
「うん」
 北斗っていうのは市の北部。北にある葦河(あしかわ)市との市境で、宝條ほどじゃねえが、結構、発展したエリアだ。
 ちょっとだけ考えて、俺は駒沢に地図を描いてもらうことにした。
「悪い。駒沢。『オーロラ』への地図、簡単に描いてもらえねえかな?」
 杏さんが住んでいるのは暮満だ。だから、彼女が電話をかけてきたとき、うっかり「暮満」っていう名前を出してしまった可能性は十分にある。それに、結界を張っているってのは、俺と簡単に連絡が取れない状況ってことでもある。
 なら、こっちから出向くべきだろう。
 俺は、携帯で千京市のエリアマップを出した。
 北斗のあたりを出したとき。
「よかったら、案内しようか?」
 と、また「おずおず」って感じで、駒沢が言った。
「え? いいのか? でも、お前、買い物とかあるんだろ?」
「いいよ、別に。時間あるし」
 俺は、駒沢の厚意に甘えることにした。


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