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作品名:今日も杏とて。継 特傳之壱 作者:ジン 竜珠

第2回 特傳之壱・弐
「もしもし」
『竜輝はん。今、お時間、よろしやろか?』
「ええ、いいですよ」
 いつものように、柔らかい物言いだが、これに騙されちゃいけねえ。俺は彼女の一言一句を聞き漏らさないように、細心の注意を払いながら聞くことにした。
「どうかしましたか?」
『ちょっと確認したいんやけど。もしかして、胡桃姐さんと、珠璃はん、様子がおかしこと、ありまへんか?』
「……なんか、知ってるんですか?」
 電話口の向こうで、少しだけ、躊躇するような気配が数秒。
『あんなあ。ウチの思い過ごしかも知れまへんのやけど』
 彼女は、予知能力がとんでもねえんだが、勘も鋭い。もっとも、珠璃ほどムチャクチャなものじゃねえが(アイツのは、心も読んでるフシがあるんだよな)、それでも、俺よりは勘が鋭い。
『詳しことは、お電話ではちょっと。せやからな、明日、お時間いただけまへんか?』
「……なんか、企んでるでしょ?」
 しばらく、沈黙の時が流れた。
 そして。
『え、とな。これは、ウチにも関係してることです。なんやら、珠璃はんの空気がおかしことになると、ウチも同じ事務所でお仕事、しづらいし、胡桃姐さんとの間の空気が、妙なもんになったら、竜輝はんも困るんやないやろか?』
「確かに、それはそうですが」
『実はな。細かいところまでは視えてないんどすが、胡桃姐さんと珠璃はん、妙な火花を散らして、それに竜輝はんが巻き込まれるんが、わかるんや』
「妙な火花?」
『へえ。ここまで言うたら、おおよそ、おわかりですやろ?』
 なんとなく感じているんだが。
 姉貴は、俺を「男」として見ているように思う。でも、この間までは、そうじゃなかった。ということは、この連休中に、姉貴の考え方が変わるような「何か」があったんだな。
『そんでな? 明日、暮満(くれみつ)の「オーロラ」いう喫茶店で、胡桃姐さんと、珠璃はんが、「偶然」にお会いになるようなんや。その場に隠れとって、お話やら聞けたら、対処法も見つけられるんやないか、思うんです』
 杏さんの言うことも、わからないでもない。このまま、変にくすぶるより、機先を制する形で二人の話に割り込めれば、うまく事態の収拾をつけられるかも知れねえしな。しかし。
「きょ・う・さ・ん? 確認しますけど? な・ん・か、企んでたり、しませんよね?」
 俺の言葉に、溜息をつく気配があって、杏さんが言った。
『竜輝はん。さっきも言うたやろ? ウチと珠璃はん、同じ職場にいてますのや。仕事仲間が変な空気、持っとったら、ウチかて、困りますのや。こう言うたら珠璃はんに失礼やけど、珠璃はん、お仕事とプライベートとの切り替えが、きっちりできるほど、大人になってまへん』
 なるほど。確かに、「そういうもの」かも知れねえな。
「わかりました。じゃあ、明日……と言いたいところですけど、俺、その『オーロラ』ってどこにあるか知らないンスけど?」
『へ? ご存知ありまへんか? ……おかしなあ、竜輝はん、その場所、ご存知のはずやけど?』
 と、彼女が首を傾げるような気配を漂わせたあと、言った。
『わかりました。ウチがご案内しますよって。明日の朝、九時二十分頃に「東品浦(ひがししなうら)」いう駅でお待ちしてます』
「東品浦」っていうのは、市電の駅だ。ここの駅前にいくつかバス停があるんだが、その一つが暮満に向かうバスの停留所だ。
「わかりました。じゃ、明日」
 約束して、俺は電話を切った。
 念のために携帯で「千京市の、『オーロラ』っていう名前の、喫茶店」っていうのを検索してみたが、出てこなかった。
 ま、明日、杏さんに連れて行ってもらえば、すむことだし。
 もちろん、細心の注意を払うのは、言うまでもねえな。


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