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作品名:今日も杏とて。継 参之章 作者:ジン 竜珠

第5回 5
「尾関さん」
 振り返ると、三沢さんの表情が硬い。それに。
 昨夜は、ベッドで私のことを「千鶴(ちづる)」って、下の名前で呼んでくれたのに。
 ああ、みんながいるからね。
 でも、その堅苦しい表情は気になる。
「どうしたの、秋平(しゅうへい)さん、じゃない、三沢さん?」
「昨夜(ゆうべ)、自殺する直前の木島くんから、電話があったんだ」
 え? 三沢さんと木島さんって、お互い電話をするような仲だったの? 知らなかったな。
「それでさ。君、課長を利用して、木島くんのプランを潰したんだって?」
「え? ちょっと待って、なんで、そんな話が出てきたの?」
「課長が木島くんのプランに手を入れているところを、木島くん本人が、たまたま見かけて、激しく問いただしたそうなんだ。で、課長が、つい、言ってしまったらしい。それに、谷さん……美香(みか)ちゃんからも、いろいろと聞いたよ」
 そう言って、私を蔑んだ目で見て、去って行った。
 気がつくと、周囲に人がいなくなってた。にもかかわらず、ヒソヒソといった感じの声だけが耳に届いた。
「あの人、課長と不倫してたんだって」
「変な噂を流して、谷さんのこと、おとしめたって」
「変な取り巻きとか、作ろうとしてたみたい」
「最低」
「サイテー」
「カスね」
「やだやだ。あんな人についていったら、最初はいいかも知れないけど、そのうち、こっちもポイ、だわ」
「怖くて、仲良くできないよ。いつ自分も裏切られるかと思うと」
 ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ! 私の話も聞いて! この世の中、のし上がっていこうと思ったら、少しは汚いこともしなきゃ駄目なのよ! それは、あなたたちだって、わかるでしょ? 私だけが悪いの? ねえ、私だけが、悪いの!? あなたたちも、こんなことしなかった!? ていうか、もっとひどいことしてるんじゃないの!?

「せやなあ。世の中で勝ち上がろ、思たら、こすいこともせな、なりまへんなあ」
 涼やかな声のした方を見ると、一人の女の子。ストレートの髪は腰ぐらいまである。着ているのは、アイヴォリーのジャケットに黒いシャツ、赤いネクタイ。バーバリーチェックのプリーツスカートに、黒いオーバーニーソックス。
 この辺じゃあ、見ない制服だ。どこの高校だろう?
 女の子は何か企んでるような笑みを浮かべて、こっちを見てる。開いた扇子を口元に当てて。
 その時、私の背筋が凍った。
 あの子の瞳が光ってる! たとえじゃない、本当に光って見える! シトリンみたいだけど、ちょっと違う。喩えるなら……。
 そう、邪悪なものを灼き尽くす、烈しい陽光。
 女の子が近づきながら、言った。
「今、あんさんがご覧になったんは、ウチが視た未来の一部です。……これな? 変えられる可能性を持ってますのや。あんさんの過去に、何があったんか、それはここでは申しまへん。でもな? これは、あんさんにもわかりますやろ? 本田はんは、あんさんの過去、木島はんは、あんさんの未来。課長はんは、さしむき、今のあんさんかなあ?」
 この子、一体、何を言っているのかしら?
「あんさんのなさってることに対して、ウチはどうこう、申しまへん。正しいとも、悪いとも、判断はしまへん。勝利者になろ、思たら、なんでもせな、ならんやろし。法律に触れなんだら、お巡りさんに捕まることもないし。でもな」
 と、女の子の口元から笑みが消えた。
「やっただけの報いは、ありますえ? 人を利用して、裏切っとったら、いつか自分も裏切られる。あんさんの身に置き換えて、考えたら、よろし。この人と一緒におったら、いろいろとええことがあるなあ、と思うてたら、そのお人が他人を利用して、えげつないことばかり。そんなん見とったら、『いつか自分も同じ目ぇに遭うかも知れへん。それやったら、いつまでも一緒におるんは、考えものやなあ』。そないに思うんが、人情ですなあ」
 ……。


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