まえがき 「あらすじ」でも触れさせていただきましたが。今回の「これ」は、掲載させていただくかどうか、迷いました。うまく申せませんが、どこか、自分の中に納得できないものが残っているんです。それを解消できない限り、発表するべきではないなあと思っていたんですが。 すみません。いろいろと考えましたが、発表させていただきます。
参之章・壱
はき直したスカートのしわを伸ばしていたら、衝立(ついたて)の向こうで、課長と、木島(きじま)のウスノロが話しているのが聞こえた。 「課長。それって、私のプランが、却下、ということですか?」 「すまんね、木島くん。君のプラン、決して悪いわけじゃないんだ。ただね。君のプランを押しても、今度の企画会議で通ることはないと思う。もっと、練り込んでから、提出して欲しいんだ。わかるね?」 「でも! 課長も仰ったじゃないですか! 『今の時期だからこそ、このプランが生きる』って! 『今だからこそ、提出できる、今を逃したら意味のないプランだ』って! それって、次はない、ってことじゃないですか! 私だって、これに賭けてる! それこそ、私の全情熱を傾けて……!」 「話は以上だ」 課長の言葉のあとに、一瞬、聞こえたうめき声は、多分、木島の声ね。さしむき、「涙を呑んだときにもれた、嗚咽」かしら? 木島が会議室を出て行ったのを、ドアの閉まる音で確認すると、私は衝立から出て、課長のそばに行った。 「課長、ご苦労様でした」 そう言って、私は、課長の胸にしなだれかかってやる。課長の鼻の下が伸びていく。足よりも、確実に長いわね、この鼻の下。 目尻を思い切り下げて、課長が私を見る。当年とって五十六歳。この年でまだ課長ってことは、もう先がないのは、この男もわかってるんじゃないかな? だったら、若い女子社員と、後腐れのない愉しみにふけるのが、得策よね。 もちろん、そう思い込むように、私が仕向けたんだけど。 「これでよかったのかな、尾関(おぜき)くん?」 「ええ。十分よ」 言いながら、上目遣いで課長を見てやる。ほらほら、ヨダレが垂れそうになってるわよ、か・ちょ・お?
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