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作品名:今日も杏とて。継 弐之章 作者:ジン 竜珠

最終回 弐之章・伍
 智夏子が、紙を開いて、中に書いてあるらしいことを、声に出して読み上げた。

「灯り照る(あかりてる)、灯台の建つ、岩山の、もとにこそ宝(たから)の光(ひかり)照(て)る」

 いて! なんだ、これ、神歌(しんか)ってやつじゃねえか!
 あ、智夏子のやつ、また読み上げやがった。
 痛いから、やめろ! 何度も読むな! まるで神歌の意味を味わうみたいに読むな!
「遠くに光……視線を向けるんじゃなくて、身近に、いい人がいるってことかな?」
 泣きながら読む、ってのはどうでもいい! とにかく、その神歌に意識を向けるな!
 やばい、ここから、撤収した方がいい!
 とにかく、遠くへ……。ん? 史泰!? なんでここに!? ていうか、もしかして、あいつも同じバスに乗ってたのか!? 全然、わからなかったぞ!? どうなってんだ!?
 ん? 史泰、上着のポケットから、なんか、出したぞ。ああ、あの女の事務所から出たときに、お守りがどう、とか言ってたな。そのお守り袋か。
 あ。あのお守り袋! そうか、あの袋になんかの術がかけてあったのか! ていうか、なんでそんなことをする必要が!? 意味ねーだろ! そんなことをしたって、何の意味が!? せいぜい、俺のような小物の妖魔の目をくらませるぐらいにしか、役に立たないんじゃねえか!?
「あの子、昴の海浜公園に必ず行って、その時に心が痛む光景に出会うことがあったら、このお守り袋を開いて、中の紙に書いてあることを、繰り返し、読めって、言ってたっけ」
 史泰が、お守り袋から、なんかの紙を出して、開いた。まさか……。

「道を行(ゆ)く、人は見ずとも、天(てん)は見る、しなやかに咲け、野辺(のべ)の花草(はなくさ)」

 あたたたたたた! やっぱ、神歌じゃねえか! だから! 繰り返して読むな! 意味を探ろうと、意識を向けるな! お前らにとっては、ただの歌なんだから!
 おい、史泰、なんで、こっちに来るんだ!? ああ、智夏子のところに来たのか。
 智夏子も、史泰に気づいたか。
「宇津先輩。その」
 智夏子が鼻をすすりながら、史泰を見た。ていうか、二人とも、はやくその神歌を、捨てろ!
「ああ。前島くん。もしかして、見てた、今の?」
「はい。それで、あの」
 なんだ、史泰、何を言い出すつもりだ?
 随分と、溜めてるな。
「先輩!」
 うわ! 俺の方が驚いた! 智夏子もビックリしてる。
「コーヒーとか、おごります! 俺、イケメンでも金持ちでもないですけど、時間だけはあるんで! 今日は、先輩の愚痴、聞かせてもらいます!」
 何言い出すんだ、こいつ! ていうか、ここから離れたいのに、神歌のダメージで、思うように動けない!
 なんでだ!?
 ていうか、智夏子、なにしてんだ、早くフッちまえよ、そんな男!
「前島くん、生意気。後輩が先輩にコーヒーおごるとか、絶対ないから、そんなの」
 よし!
「だからさ。私がお昼ご飯とかおごるから、今日はつきあいなさい。君が言ったのよ、愚痴を聞いてくれるって」
 なんでそうなるんだよ!?
 あ。体が動く。
 とっとと、この場から、おサラバ……って。
 なんで、公園出たところに、「あの女」がいるの? 着てる服、象牙色のジャケットに黒いシャツに、赤いネクタイに、ミニのスカートに、て。
 なんか、変な「氣」がこもってる。俺たち妖魔が苦手としている種類の「氣」だ!
 そうか、これがあの女が「隠してる」氣だ!
 ここから離れ……たいけど、動けねえ!
 マジで、どうなってるの!?
 おい、なに、扇子、開いてんだよ?
「しょうのない、坊(ぼん)やなあ。せっかく、この間は見逃したったのに、『おいた』がすぎましたわ。ウチをたばかろうなんて、一京年(いっけいねん)、早うおすえ?」
 なんだよ、口に浮かべてる、その笑いは!? なんか、企んでるだろう、お前!?
 なに、扇子を扇ぎ出したんだ?
 ……あだ! 痛い! その扇子の風、ムチャクチャ痛い! ちょ、ちょっと、待て! じゃない、待ってください!
 あだ!
 あだだだだだだだだだ!


(今日も杏とて。継 弐之章・了)


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