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作品名:今日も杏とて。継 弐之章 作者:ジン 竜珠

第3回 弐之章・参
 そう思っていたら、今度は若い男が事務所に入っていった。こいつも知ってる。名前は前島史泰(まえじま ふみやす)。智夏子の職場の後輩で、同じ部署だ。ついでに言うと、こいつ、智夏子のことが好きだ。さらに言うと、告白できてねえ。もっと言うと、智夏子、史泰の気持ちに気づいているが、応える気はないのがわかる。
 妖魔の俺が言うのも変だが、史泰の方が、智夏子には、いいんだよな。いわゆる「イケメン」「セレブ」じゃねえが、この若造、人間として大事なことを心得てやがる。だから、智夏子のことを大事にするだろうし、それはつまり、俺が手出ししにくい人種ってことでもあるんだが。
 ……いいこと、思いついた。こいつ、智夏子が振られるところに一緒にいるように仕向けよう。そうすれば、智夏子が別の男に想いを寄せているのがわかって、でも、目の前でフラれて。慰めようにも智夏子は庸治のことを忘れられないから、相手にされなくて。
 こいつも絶望への一歩を踏み出させることができそうだ。
 一石三鳥じゃねえか!
 と思ったら、史泰も事務所から出てきた。なんかの相談をしたにしては、早いな。ん? 何か呟いてる。
「妙なことを言うなあ、あの子。『お守りができたから取りに来い』ってことだから、来たけど。お守り袋の中のものを開いて読めって。それに、今から、『あそこ』へ行けって」
 首を傾げてるから、よっぽど妙なことを言われたんだろう。
 やっぱり、あの女、変だ。

 さっそく俺は智夏子に囁いてやった。
 それを聞いた智夏子は。
「……そうね。大型連休中だし、どこかでイベントでもやってるだろうし」
 よし。
 智夏子がバス停に向かう。おっと。そのバスじゃねえ。俺は智夏子の足を引っかけた。
「あいた!」
 智夏子が転んだ。その隙に、こいつが乗ろうとしてたバスが走り去る。すかさず、俺は別の方へ行くバスを囁いてやる。
 発車までまだ、五分ぐらいある、バスだ。すでに何人か、乗り込んでる。
 起き上がった智夏子が少し考えて、そのバスに乗る。じゃあ、次は史泰か。
 あれ? 史泰の姿がない。
 ……まあ、いいか。やつは、今度の楽しみにとっておこう。

 しばらくバスが走ると、行く先は昴(すばる)ってところにある海浜公園だ。
 実はここに庸治が恋人とデートで寄るんだよ。ていうか、俺がそういう風に仕向けた。
 やっぱり、頭を使わないとな。ただ、闇雲にどこかへ誘導すればいい、てものじゃねえ。
 それなりに「意味のありそうな」場所がいい。
 そう、ここは、智夏子にとって、庸治との、ある意味で「思い出の場所」なんだよ。あれは、去年の夏だったかな? 職場で何らかのレクリエーションがあって、その帰りに、庸治と智夏子を含む何人かが、ここに立ち寄った。その時、ちょっとしたアクシデントがあって……いっておくが、俺は何もしてないぞ? そのアクシデントで、智夏子のやつ、庸治と、たまにだが、一緒にカクテルバーなんかに行くようになった。
 しかし、晴天になりやがった。実は、太陽光って、ムチャムチャきつい。さっきまで曇ってたから、まだよかったんだが。
 そう、俺たち妖魔の本領が発揮できるのは、「夜」とか「闇」とか、まあ、そういうフィールドだ。日中も活動できるが、晴天はやっぱりキツい。早いとこ、片付けたいんだが。
 遅いな、庸治と恋人。昨日、囁いといたから、すでにこの時間には、ここにいるはずなんだが。
 お。来たか。遅ェよ。


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