俺は、人間たちからは「妖魔」と呼ばれている。 もっとも、人間たちが何を「妖魔」と呼んでるのかは、厳密にはわからねえし、俺自身も、仲間内じゃあ「小物」扱いされてる。 あの、髪の長い女に言わせると、俺は「ヤンチャ坊主」だそうだが、そんなことはどうでもいい。 ていうか、あの髪の長い、背が高くて細いクセに、胸のデカい女のせいで、俺たちの仲間が、ことごとく消されてる。人間たちから「淫魔」って呼ばれてるヤツが、何体もあの女のところへ行ったんだが、帰ってこなかった。 というわけで、俺たちの中では、あの女に対しては、バックリと二つの対応に別れてる。つまり「関わるな」と「許すまじ」だ。 前者の「関わるな」っていうのは、もちろん、俺たちのような「小物」もそうだが、どういうわけか俺たちよりハイクラスの方に多い。一方、「許すまじ」っていうのは、もちろん、俺たちよりハイクラスの方にもそういう行動に出る存在もいるが、圧倒的に俺たちの周囲にそんなことを言ってるヤツが多い。 で、俺は、というと。 そんなの「許すまじ」に決まってるだろ。
大体、人間のくせに生意気なんだよ。人間てのは、俺たちにオモチャにされるために存在してるんじゃねえか。なのに、あの女! 俺たちを、ていうか、俺を見ても、ビビりもしねえ。確かに、あいつが隠しているらしい「氣」は、普通の人間とは違う。ちょっとだけ、その「氣」が漏れ出ているのを感じたことがあるが、あれは、人間たちが持っているようなモノとは、根本的な「質」が違う。それに、ある程度まで、何らかの呪術を心得ているらしいが、そんなもの、俺が本気になれば、屁でもねえ。 ということで、俺は、あの女をいたぶることにした。
あの女は、この街で「スピリチュアル」の事務所をやっている。そこに、一人の女が、なんかの依頼に来た。恋愛成就だろう。実はそれは、わかってる。 事務所には、強力な結界があって、俺は近づくことはできねえ。だから、細かいところまではわからないし、邪魔もできない。 だが、依頼に来た女なら、ある程度までなら、コントロールできる。 簡単なことだ。 つまり。 依頼に来た女……宇津智夏子(うづ ちかこ)っていうOLなんだが、そいつにまず「期待」を抱かせる。人間たちの中には、意味ある偶然のことを「シンクロニシティ」って呼んで、ことさらに重要視している連中がいる。確かに「意味のある偶然」っていうのも多い。俺たちでさえ、理解できない「運命の歯車」、っていうものも存在する。だがな? そうじゃないのも、あるんだな、これが。
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