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作品名:今日も杏とて。継 外傳之壱 作者:ジン 竜珠

最終回 外傳之壱・伍
 見当をつけて河川敷へと来てみたが、多英の姿はない。だが、彼女の「気配」あるいは「情報」のようなものは残存している。それが、多英がここに来たがゆえのものか、それとも「ここへ意識を向けたから」なのか、そこまではわからない。
 しばらく歩いていると、一匹の、茶虎の猫がいた。仔猫より、ちょっと成長した感じだ。汚れているが、完全な野良ではないらしい。人なつこく、珠璃が指を差し出すと、鼻をひくつかせて、近づいてきた。
「キミ、どこのコだ?」
 思わず、顔がニヤけてくるのを感じながら珠璃は猫を抱き上げる。猫はどうやら、飼い猫か、あるいは飼い猫だったことがあるらしく、おとなしく珠璃に抱かれている。
 その時、あることが閃いた。
 この猫を連れていたら、多英に会える気がする。
 ただ、バスなどの移動手段は使わない方がいいような気もする。
 行く先は。
 なんとなく、東賀の方のような気がした。

 歩いている最中、ふと、珠璃は住宅地の区画路に設置されたカーブミラーを見上げた。
 ちょっと汚れた茶虎の猫を抱き、何処へ行くともなくさまよい歩いている女の子。
 それを見た瞬間、珠璃はふと思った。
 そもそも、多英の気持ちを無下にしたくない、という、ある意味、軽い気持ちだったはずだ。それが、いつの間にか「なんとかして多英に会わないといけない」という気持ちに、なってはいないか?
「えっとぅ? ちょっと待って?」
 珠璃は自問自答してみた。
「なんで、ボク、薄汚れた猫を抱えて道をうろついてるのかな?」
 深く考えたら、もしかしたら「負け」かも知れない。
 途中、竜輝に出会った。
「珠璃。俺は自分で、自分が勘がいいとは思ってねえ。勘が良かったら、この前の土曜日に、『鈴花堂』で杏さんの『陰謀』に引っかかったりしねえしな。でもさ、今の俺でもわかるぞ? お前の直観、今回はトンチンカンな方向に行ってねえか?」
 竜輝の視線が、珠璃の抱いた猫に注がれている。
「竜輝。ボクにも一応、通すべき筋があるんだよ?」
「要するに、意地になってるってことで、いいか?」
「ゴメン、急ぐから」
 自覚のあることだけに、竜輝にだけは指摘して欲しくなかった。

 遡って、金曜日、昼休み。
 篠田多英は、クラスメイトの井川舞(いがわ まい)と、飼い猫・ラーラについて話をしていた。
「なに、多英っち。まだ、ラーラちゃん、見つかってないの?」
「うん。今日で三日目。パパとママも、貼り紙した方がいいんじゃないかって」
「そっか。あのさ、もしかして、ラーラちゃん、誘拐されたってことない?」
「え? まさか。うちの猫、雑種だよ? 誘拐したって、意味ないし。でも、うっかり首輪はずしてたときに、いなくなっちゃったから、雑種ってわからないかも」
「そうか。……そういえば、誘拐って、英語でkidnapっていうんだよね。猫だから……。もし誘拐なら、catnap?」
「変なこと言わないでよ、マジで、不安なんだから」
「ああ、泣かないでよ。ごめん、ごめんてば! ……そうだ、生徒会長に相談してみたら、どうかな?」
「え? 珠璃様に?」
「うん。珠璃お姉様って、頼りになるし。スピリチュアルの事務所でバイトしてるそうだから、そういう方面でも、助けてくれるかも。それにさ、多英っちも、お姉様とお近づきになる、チャンスだよ?」
「え? そ、そうかな? エヘヘヘ……」
「がんばれがんばれ。あ、ちょっと待って。今、なんとなくケータイで『英和辞書』見たら、catnapって、『お昼寝』とか『うたた寝』っていう意味だって。猫の誘拐じゃないんだ」
「ふうん。まあ、誘拐じゃないと思うし。今日の放課後、シャングリラに行ってみるね。珠璃様の都合さえよかったら、明日辺り、一緒にラーラちゃん、探してもらえないかなあ。多分、catnapじゃないと思うけど」
「だから、さ、多英っち。catnapは『猫さらい』じゃなくて、『お昼寝』だから!」
「あ、そうか。catnapは、『お昼寝』か。よく覚えておかなきゃ!」
「いや、別に、試験に出るとか、そんなんじゃないから」


(今日も杏とて。継 外傳之壱・了)


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