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作品名:今日も杏とて。継 外傳之壱 作者:ジン 竜珠

第4回 外傳之壱・肆
 下級生の名前は「篠田多英(しのだ たえ)」といった。連絡先もわかったが、留守。詳しいところは視えてこないが、どうやら不在なのは間違いないようだ。なんとなく、だが、両親は仕事、多英自身は塾に行ってるように思える。
 放っておいてもいいが、せっかく自分に好意を寄せてくれている女子、しかも引っ込み思案なのを、頑張って今日の放課後、声をかけてきたのが感じられるから、その想いを無下にするのは、ちょっとドライに走りすぎる気がする。
「明日の朝早くにでも、あの子の家に行ってみようかな」
「なんだ、あの子の家って?」
 夕食の席で、思わず、珠璃は口に出してしまったらしい。竜輝が反応してきた。
「ああ、なんでもないよ」
 そう答えて、珠璃は、ふと思ったことを言った。
「そういえば、こっちに住むようになってから知ったけど、竜輝のコーディネートは、胡桃お義姉さんなんだよね?」
「ああ。俺、そういうのはよくわからねえしさ。それが、どうかしたか?」
「うん。なんとなく、だけどね」
 と、珠璃は感じたままを言った。
「今、胡桃お義姉さん、宗家に帰ってらっしゃるけど、こっちに帰って来たら……」
 そこで、止めた。言うべきか言わざるべきか。
 竜輝がこっちを見ている。考えた上で、こう言うことにした。
「こっちに帰って来たら、竜輝のお世話、ある程度、ボクに任せてくれるんじゃないかなって思って。ボクもさ、竜輝の服のコーディネートをしたいんだ。ほら、曲がりなりにも恋人なわけだし」
「ふうん。ま、いいけど」
 そう言って、竜輝は珠璃が作った味噌汁を口に運ぶ。
 よくはわからないが、胡桃が竜輝に対して、これまでとは違う態度に出るような気がしている。だから、こちらもそれなりの考えを持っておいた方がいいような気がしているのだ。

 土曜の朝。午前八時四十五分。珠璃は学籍簿にあった多英の家に来ていた。彼女の家は、昴(すばる)の住宅地にある。学園からは徒歩で二十分程度だろうか。しかし。
「留守、か」
「ペット可」だという、このあたりでは、珍しいマンションの一室が彼女の住まいだが、応答がない。多英がイメージしたのは、確かに今日、土曜日。もしかすると、多英は、珠璃を誘えなかったことに後悔の念を抱きながら、一人で「シエスタ・カプリチョ」へと行ったのかも知れない。
 そう思ったら、とても彼女が可哀想に、……否、かわいらしく感じてきた。
 珠璃はバスに乗り、宝條へと向かった。

 そして、シエスタ・カプリチョ。だが、外から見る限り、多英の姿はない。では、どこへ、と思ったとき、珠璃に声をかけた者がいた。
「あれ? 珠璃、お前、ここで、何してるんだ?」
「ああ、竜輝。まあ、ちょっとここへ来たくなってさ。キミこそ、どうしたんだい、こんなところで?」
 竜輝は携帯を出して答えた。
「昨日も言ったけど。爺さんから、訳のわからんスケジュールが送られてきたろ? あの関係で、今日はちょいと、あちこち歩き回らねえとならねえんだ」
「たいへんだね」
 そう言ったとき、ふと、多英が今、河川敷にいるような気がした。市の東部・東賀(とうが)にある山から市の南部・昴にかけて緋井之川(ひいのかわ)という川が流れているが、その下流には大きな河川敷がある。なんとなくそこに、彼女がいるような気がしたのだ。
「ゴメン、竜輝。ちょっと、急用を思い出したんだ! これで、失礼するよ!」
「急用? 電話受けた訳でもねえし。ていうか、そもそもなんで、こんなところに来たの、お前?」
 竜輝の不思議そうな顔ももっともだ。珠璃自身も、自分が言ったことが、まったくもって非論理的であることは了解している。だが、竜輝はある程度、理解したようだ。
「まあ、お前の直観は、神の領域だからな。なんか、観じたんだろ?」
 それに頷き、珠璃はバス停へと向かった。


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