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作品名:今日も杏とて。継 外傳之壱 作者:ジン 竜珠

第2回 2
「あ、キミ!」
 と、声をかけたが、下級生はそのまま、走って逃げてしまった。
「……まあ、いいか。一年C組だっていうのは、学年章でわかってるし。写真入りデータベースと学籍簿との二重チェックをすれば、連絡先もすぐにわかるし」
 そして、遠くなった女子の背を見る。
 たまには、小さな女の子を愛でるのも、いいかも知れない。自分の腕の中で、お人形のようにかわいくて小さな子を、壊さないように愛撫するのは、どんなに気持ちがいいだろう。
 本当なら、天宮流神仙道の同門であり、同じ学園に通う橘麻雅祢を愛でたいところだが、さすがに気が引ける。麻雅祢のことだから、珠璃を拒むことがないのはわかるが、いくらなんでも体裁が悪い。
 だからといって、他の女生徒を食い散らかしていい、というものでもないが、同意の上なら問題はないはずだ。珠璃は、勝手にそう思っている。
 もっとも、竜輝も杏も、このことを知れば、呆れかえることだろうが。
 とりあえず、今のコには、あとで連絡を取ってみよう。
 そう思って振り返ったとき、書記の女子が言った。
「会長、鼻血、出てますよ?」
「え? ……ああ、さ、さっき、クシャミして、強く、鼻、かんじゃったから」
「そうですか。気をつけてくださいね、鼻粘膜(びねんまく)って、弱いっていいますから」
 あぶないあぶない。久しぶりに女子、それも下級生とのデートなので、思わず興奮したようだ。そう思って、ポケットからティッシュを出したとき、一つのことが閃いた。
「そういえば、『エテールノ・ジョイア』のあとに入った喫茶店、確か、『シエスタ・カプリチョ』っていったっけ? シエスタって、スペイン語で『昼寝』だったよね」
 もしかすると、あの女子は珠璃と「シエスタ・カプリチョ」でデートがしたいのかも知れない。
 これは、連絡確認は必須のようだ。

 珠璃が「心域の砦」に到着したとき、ちょうど相談者と思しき男性が事務所の前にいる。引き戸を開けるかどうか、逡巡しているところのようだ。
「いらっしゃいませ」
 珠璃が、そう声をかけると、男性が振り返った。大学生だろうか。
 いつもなら、職員通用口から事務所に入るのだが、この男性を中にエスコートする意味もあって、珠璃は表口から中に入った。
「杏さん、お客様です」
 そう、声をかけると、給湯室から、制服を着た杏が現れた。そして、杏は男性を見て、言った。
「おや、赤石(あかいし)はんやないの。どないしたんやろか?」
 と、杏がいつもように柔らかい笑顔になる。
「杏さん、この人と、お知り合いですか?」
 珠璃の言葉に、杏が頷く。
「同じ大学で、同じセンセに習うてます。本日は、どないしはりました?」
 赤石と呼ばれた男性が言った。
「俺さ、この大型連休に東京に行くんだ。で、天宮さんがこういう事務所でバイトしてるって、人から聞いてさ。旅の安全とかのお守りなんか、格安でもらえないかな、って思って」
 頭をかいてるあたり、いわゆる「お友達価格」でやってもらいたいのだろう。こういってはなんだが、東京への旅行で「旅中安全」の護符を求めるのは、大げさな気もする。もちろん、道中、何が起きるかわからないのも事実だが、おそらく、この旅行は、彼にとって「観光」以上の何かがあるのだろう。そして、それはおそらく、他のスピリチュアル関係の事務所に行って依頼したら、それなりの額が要求されるようなことに違いない。
 それがわかっているらしい杏も、やはり穏やかな笑みになって、言った。
「わかりました。赤石はんのお役に立てたら、ウチも嬉しいなあ」


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