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作品名:今日も杏とて。継 壱之章 作者:ジン 竜珠

最終回 壱之章・伍
「えっと。ボンゴレ・ビアンコと、ジンジャーエール」
「かしこまりました」
 店員さんが、戻っていったとき、俺に蒲田さんが気付いた。
「聞いた声だと思ったら、秋沢(あきさわ)じゃないか」
「ど、どうも」
 うわ、なんか、バツが悪いな。この間、バイトやめますって言ったばかりだし、そもそも、俺が出した企画、ボツにしたの、蒲田さんだし。
 俺を見ていた蒲田さんが、何かに気づいたように、言った。
「そうだ、秋沢。お前、企画書、出してたよな? あれ、今、持ってるか?」
「え? ええ、ありますけど」
 偶然だけど、その企画書が入った鞄、今、手元にある。
「ちょっと見せろ」
 俺は、言われるまま、鞄から封筒を出した。本当なら、封筒から出して渡すべきだけど、どうせボツになった企画だし、もうやめたバイトだから、そこまで気を遣う必要もない。
 俺から封筒を受け取った蒲田さんは、封筒から企画書を出し、パラパラとめくり、一言、言った。
「よし! これでいこう!」
 和久さんと沖原さんの声が、キレイに「え?」とハモった。
 蒲田さんが、さも「当然」と言わんばかりに言った。
「いやさ、コイツの企画、ちょっとピンボケだけど、うまくフォーカスしてやれば、いいモノ持ってるんだよ。時間もないし、とりあえず、これ、通そう。練り込みは、それからだ」
「ちょ、何言ってるンスか、蒲田さん!?」
 そう言ったのは、沖原さん。
「まあ、蒲田さんがいいんなら、俺は別にいいですけどね」
 とは、和久さんの言葉。
 え……? どういうこと? 蒲田さん、何、言ってるの?
「あの、蒲田さん? これ、ボツ、だったんですよね? ていうか、何の話、してるんですか?」
「ン? ああ。お前のこの企画、ちょっと『ムラ』があって、どこに訴求対象を持って来てるのか、わかんないからな。それに、そもそもお前、正社員じゃねえし、立場上、やむを得ないところもあってボツにしたんだが。でも、ある企画が土壇場になって使えなくなってな。時間がないから、他の企画を探したが、ロクな奴がなくてなあ。これなら、十分、使える。練り込みにちょっと時間がかかるが、一からコンペやるより、はるかに時間が圧縮できる。……そういやあ、お前、うち、やめたっけな。あれ、撤回しろ。やめるのは、俺が許さん。あと、お前も会議に顔出せ。プレゼンの本人がいなくちゃ、話にならん」
 気がつくと、俺は、自分の目に涙が浮かんでるのを感じた。
 あの女の子たちが俺の傍を通り過ぎて、会計に向かうのが見えた。その時、髪の長い方の女の子の声が、耳に入った。
「ええ未来を、確実なものにするんも、ウチのお役目ですさかいな」
 ショートヘアの、眼鏡の女の子との会話で出てきた言葉だから、多分、二人にだけ通じる話なんだろう。
 俺は蒲田さんに頷きながら、心の中に大きな光が満ちて行くのを感じていた。


(今日も杏とて。継 壱之章・了)

※ブロッコリーの話もバラの話も、実話です。園芸をやってらっしゃる方には「当たり前」の事なんでしょうが、枯れている、あるいは枯れかかっている状態から、まったくお世話をしてないにもかかわらず、葉が茂って、花まで咲いたのは、私には、衝撃でした。
 第一シーズンも含め、この一連のシリーズが、どなたかの心の中にあるロウソクに、灯りを灯せれば。
 そんな不遜なことを思いながら、書かせていただいてます。


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