もう、ダメだと思う。 これでも頑張ってきたつもりだったんだ。大学を四年目で中退して、三年。いろんな「企画」なんかの仕事をしたくて、大学在学中も、いろいろやって来た。ツテを頼って、あるサイトの運営会社でバイトして、企画書を書いて、提出して。 でも、まあ、ボツの連続で。 今度のヤツはそこそこ自信があったんだけど、やっぱダメだった。 ……最後の勝負だったんだよな。 世の中、甘くないわ。 もう、限界だし、潮時だ。 俺は、企画がボツになって一ヶ月後、大型連休に入る前の日にバイトをやめることを告げ、故郷(くに)に帰ることにした。一ヶ月かかって、俺を支えていた「何か」が、ボッキリと折れちまった、と思ってくれ。
で、だ。 故郷に帰るには、新幹線を使わないとならなくて、で、俺が住んでる市には新幹線の駅がなくて。そこへアクセスするには、千京市にある大きな駅へ行って、そこから新幹線の駅がある街まで行かないとならない。 俺、免許はあるけど、車もバイクも持ってないから。 ある晴れた朝、俺は、荷物を抱え、地元の駅へと向かった。大きなものは、もう、業者に発送を頼んである。
駅へ向かう途中だった。バスを待っていると、女の子たちの会話が耳に入ってきた。 「え? 忘れ物ですか?」 「そや。あのバッグ、置いてきてもうてん。取りに帰らな」 何となく、声のする方を見た。そこにいたのは、眼鏡をかけたショートヘアの美少女と、髪の長い美女。二人とも高校生だろうか? 眼鏡をかけた方の子は、まあ、お洒落な服っていってもいいかな? よくわからないけどさ。で、髪の長い方の子は、クリームイエローのスウェットに、薄いブルーの、つなぎみたいな服を着てる。サロペット、とかいうんだっけ? でも、ズボンじゃなくて、ロングスカートだ。 二人とも、かなりの美形だな。どこかの事務所のアイドルかな? 見とれていると、俺も、ふと気がついた。 「バッグ……か」 そういえば、バッグじゃねえけど、あの書類鞄、発送する荷物に入れるの、忘れてたな。バタバタしてたし、俺も落ち込んでて、注意してなかったんだろう。アパートのあの部屋に置いたままだ。置いといても、そのうち大家さんから連絡があるだろうけど。 時間にはまだ余裕があるし、取りに帰ろう。あの鞄には、一ヶ月前にボツ喰らった、あの企画書が入っている。 俺の最後の未練だ。せめて、俺の手で、葬ってやろう。 故郷に帰って、最初にやるべき仕事ができたな。 俺の未練を、火葬してやること。 俺の、けじめだ。
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