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作品名:今日も杏とて。episode.8 作者:ジン 竜珠

第2回
 事務所に入るなり、美人の方が、柔らかい笑顔を浮かべて、俺に言った。
「野本(のもと)はんですなあ? お待ちしてましたえ?」
「……え? 俺、予約の電話とか、してませんけど? ていうか、飛び込みですけど?」
 俺の顔には、どんな表情が浮かんでたんだろう? 俺の顔を見て、美少女の方も笑顔を浮かべて、言った。
「お気になさらず。まあ、こういう事務所ですからね、とりあえず、不思議なことは『当たり前』だと思ってください」
 そして、二人は俺に名刺を出した。髪の長い方が、杏さん、眼鏡の子が珠璃ちゃんっていうそうだ。
 相談スペースで、俺は今抱えてるトラブルを話した。……でもなあ。二人を前にすると、ちょっと不安になる。確かに俺のことを言い当てたのはスゴいけど、二人とも、随分若い。具体的に年齢は聞いてないけど、多分、見た目通り、本当に高校生ぐらいじゃないだろうか? その若さで、俺が抱えてるトラブル、本当に解決できるのかな?
 どう考えても、厄介な霊現象だぞ、あれ。深刻な霊障とか、祟りとまでは言わないけど、アパートの俺の部屋「だけ」揺れるとか、ラップ音が頻繁にするとか。それは今、彼女たちに話した。それに、スイッチ入れてないのに、部屋の蛍光灯がついたり、アンティークで買ったラジオから、変な「声」もするんだ。かなり面倒な霊だと思う。やっぱり最初から、普通に、どこかの呪術師に頼んだ方が良かったかも?
「美女と美少女のバイトがいる」っていうのに、惑わされた俺がバカだったかも?
 そう思っていると、杏さんが言った。
「まず、な? これだけは申し上げておきたいんやけど」
「……はい、なんでしょう?」
 なんだろう、改まって?
 俺がそんな疑問符を浮かべたからか、杏さんが、ちょっと怒ったような顔になった。
「ウチらを信用して、コチラにお見えになったんやないようやけど、ご相談を承った限りは、ウチらも真剣に対処させていただきます。せやから、そちらさんも、ウチらを全面的に信用してくれませんやろか?」
 頭から血が下がるかと思った。
 俺の心を見透かしてるんじゃないのか、この子たち?
 珠璃ちゃんも、少しだけ、まなじりを上げて言った。
「確かに、ボクたちはまだまだ子どもなんだろうけど、これでもいろんな『事件』に遭遇してるんです。信用してもらえませんか?」
「事件」ていうところにアクセントがあったようだから、もしかしたら、彼女たち、俺が思う以上に人生経験を積んでいるのかも知れない。
 俺は、恥ずかしくなって頭を下げた。
「申し訳ない。……わかりました。全面的に信用します。だから、なんとかしてもらえますか?」
 その言葉に、杏さんが、満面の笑みになった。
「わかりました。全力を尽くさせてもらいます」
 すると、珠璃ちゃんが、杏さんに何か耳打ちした。それを聞き、杏さんがちょっとだけ何かを考えて、錦(にしき)で出来ていると思しき、袋を出し、それを軽く回しながら、小さく呟いた。
 そして、それを俺の前に差し出す。
「すみまへんけど、この袋に左手を入れて、中にあるものを一つだけ、出しておくれやす」
 言われた通り、俺は中のものを出した。木製のコインで、なんか記号が書いてある。俺が持ってる本には、こんな記号は載ってないし、そもそも、こんな袋とか、木製のコインなんて、知らない。もしかしたら、秘伝の占い方なのかも知れない。
 そのコインを彼女に渡すと、杏さんはその記号をメモする。
 すると彼女はそのコインを袋に戻し、また同じように回しながら口の中で何か言って、俺に袋を差し出す。
「今度は、右手で、同じことをしてもらえますやろか?」
 言われた通りにすると、今度は違う記号のコインが出てきた。
 それをメモすると、それを見ながら、杏さんが呟いた。
「動けば必ず災患敗失(さいかんはいしつ)あり、ですか……」
 そんなことを言ったように聞こえた。


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