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作品名:今日も杏とて。episode.7 作者:ジン 竜珠

最終回
「世の中も、そやな。いろんなもんが、いろんな組み方してる。あるお人が、意外なお人と組み合わさってることもあるし、ある事件が意外な事件と関連してる、いうのも、ザラにあることや」
 そして、作業台にある時計を見る。
「その時計も、歯車が一個、ないだけで、動かんようになってもうてる。あんさん、『社会の歯車』をきろてるようやけど、歯車が一個ないだけで、その機械、動かんようになるんやで? これ、とんでもないことやありまへんか?」
 女の子が「歯車がどうの」って言いだした。何を言いたいのか、なんとなくわかる。でも。
 なんで、そんな話をしてるんだ? ていうか、なんで僕が「社会の歯車なんかイヤだ」って思ってるのを、知ってるんだ?
「別に、『あんさんの夢を捨てや』って言うとるんやないです。ウチが言いたいのはな、世の中に、決して『いらんもん』はない、いうことです。確かに、お役目に大小の違いはあります。でも、そのお役を与えられたいうことは、そのお役は、そのお人にしかつとめられへん、いうことです。喩えたらな、竜頭が長針にはなれんし、文字盤が短針そのものには、なれん、いうことです」
 僕は言葉を失った。そんなたとえ話のキーワードまで、なんで、この子は……。
「あんさんは、あんさんの夢を追いかけるべきや。でもな? それで、他のお仕事の悪口、言うのんは、感心できまへんな」
 女の子は笑顔だけど、その声には、強い「何か」が籠もっていた。
 ……そうかも知れない。ちょっと感情的に物事を考えていたかも知れない。
「それに、心の置き方、向け方も、考えた方がええな」
「……え? それはどういう……」
 そう言いかけると、女の子は、イタズラっぽい笑みを浮かべた。
「年下でも、お客様は、お客様やで?」
 一瞬で、顔が熱くなった。……恥ずかしさで。
 その時、また一人、お客さんが入ってきた。眼鏡をかけた美少女だ。
「お待たせしました」
 と、眼鏡の子が、ロングヘアの子に笑顔を向けた。
 そして、多分、二人にだけわかる話をして。その時、ロングヘアの子が、眼鏡の子に「あいかわらず、勘が鋭い。キーワードもバッチリ」とかなんとか言ってたけど、そもそも話の前後がわからないから、僕には全く意味がわからない。
 そして、ロングヘアの子が、一本、安物のレディースの時計をお買い上げになって、眼鏡の子と連れだって、店を出て行った。
 その時、彼女が例の「保証書」を忘れて行ったんだけど。
「……白紙じゃん、これ」
 どんな手品だったんだろう、って今でも思う。

 そういえば、店を出たあと、ロングヘアの女の子、扇子を展(ひら)いて、あちこちを扇(あお)いでいたけど、何の意味があったんだろう? 暑いわけでもないし、煙が立ちこめていたわけでもないし。

 僕は、まだクリエイターへの夢を捨てたわけじゃない。だから、そのとっかかりとしてイベント会社や、そんな関連企業の求人募集には目を通している。
 でも。
 自分が目指す仕事を、まるで「最上のもの」のように考えて、他の仕事を「下」に見るのは、やめよう。
 今は、そう思っている。
 あの子の言葉の影響で。
 そういえば。
 名前、聞いてなかったな、あの子。
 あれから、そろそろ一ヶ月が経つけど。
 また会えるかな?


(今日も杏とて。episode.7・了)


あとがき:えーっと。詳しい理由は、記しません。第一話スタートの時点で用意していた「本筋エピソード」も、とりあえず順調に消化できましたし(もっとも、episode.5が予想外に短くなったため、急きょepisode.4を「作り」、その前に持ってきた、っていう「アクシデント」はありましたが)、しばらくの間、「今日も杏とて。」を休ませていただきます。もっとも、「楽しみに待ってる」って方は、いらっしゃらないでしょうけど。


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