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作品名:今日も杏とて。episode.7 作者:ジン 竜珠

第2回
 その日、爺ちゃんは「部品を探しに行ってくる」と言って、出かけて行った。いつもは業者に問い合わせて部品を取り寄せるんだけど、たまにこうやって、自分で部品を探しに行くことがあるらしい。婆ちゃんに言わせると「呼び合うんだそうだよ」なんだけど、言っている意味がさっぱりわからない。
 それで、一人で店番やってて、客らしい客が来ないまま、一日が終わろうとしていた。西日が店内に差し込んで来始めた頃、僕は、店じまいの準備を始めた。イタズラに店を開けていても、電気代とかが、かかるだけだ。
 で、店の表のドアを施錠しようとした時。
「こちら、時計の修理とかも、していただけるんやろか?」
 声のした方を見ると、若い女性。僕よりも、明らかに年下だ。多分、高校生か大学一年生ぐらい。でも背は高い。僕より高いから、身長は百七十センチ以上、あるんじゃないだろうか? 髪は長くて、腰ぐらいまである。東洋的な雰囲気の、ものすごい美人だ。着ている服は、パステルピンクのスウェットに、ダークブラウンのサロペットのスカート。スカートの丈は結構長くて、くるぶしの上ぐらいまである。
「えっと。そうですね。修理も引き受けては、いるけど」
 こればかりは、僕の判断で決められない。いつだったか、爺ちゃんが「このタイプは、うちでは修理できない。直接メーカーさんに問い合わせて欲しい」って言ってたことがある。
 その時は、確かデジタルの電波時計の、掛け時計だったな。
 その女の子は、ショルダーバッグから、腕時計を出した。
「これなんですけどな」
 レディースの、アナログの時計だ。これなら、多分、直せるんじゃないだろうか。
 でも、やっぱり、爺ちゃんの判断を仰がないとならない。だから。
「悪いね、今、店主がいないんで、また、来てくれる?」
 と、言った。でも、その女の子、困ったような表情になった。
「困ったわあ。詳し訳は言えまへんけど、この時計、今夜、必要なんや。なんとかなりまへんか?」
 ムチャクチャを言うな、この子。だったら、街の時計屋に行った方がいいんじゃないか?
「申し訳ないけど、うちでは無理だね。電車に十分も揺られれば、時計屋があると思うよ?」
 すると、その女の子は、溜息交じりに言った。
「あのな? この時計、こちらで買い求めましたんや。その時な、『なんかあったら、買って二年以内なら、無料で修理したる』言われてな? これ、その時の保証書です」
 そう言って、一枚の紙を出す。確かに、うちの店の名前と、爺ちゃんのサインがある。ついでに日付は二年前だ。ということは、僕がここに戻ってくる前か。
 そんなものを見せられても、こっちとしては対応しかねる。
「あのね? 店主が帰ってくるのを待つより、他の店に行った方がいいって言ってるでしょ? ここでゴネてると、時間ばかりが過ぎて、他の時計屋も閉まっちゃうかも知れないし。今夜、必要なんでしょ、その時計? 君も、もう子どもじゃないんだからさあ、それくらい、わかるよね?」
 ぞんざいな言い方になったけど、これでも気を遣ってる方だ。大体、年下相手に、ここまで気を遣うのはおかしいと思う。それに、保証書一枚で、権利を振りかざしてくるのは、おかしい。こういうのを野放しにするから、変なお客が増えるんじゃないのか?
 すると、その女の子は、口元に、妙な笑み……そう、まるで何かを企んでいそうな笑みを浮かべて、こんなことを言った。
「みすみす、お客さんを、逃がすんやろか? こちらの店主さん、あんさんのことを、お叱りになりますやろなあ。あたら儲け話を見逃すやなんて、商売人の風上にもおけんし。一事が万事、この場での対応によったら、こちらにお客さんが押し寄せる、いうこともありますえ?」
 僕は、もともと深読みをするたちじゃないけど。でも、なんとなく、読めちゃったわけだ。
 ここで変に断ったら、ここの悪口を、SNS辺りに書くぞ。
 詰まるところ、彼女は、そう言っているのだろう、と。


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