小説&まんが投稿
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:今日も杏とて。extra episode.2 作者:ジン 竜珠

第1回
 ゴールデンウィークに入ったが、とりあえず、俺に帰省する予定はない。
 いや、姉貴は帰省したし、俺もそのつもりだったんだが、まあ、いろいろと都合がある。
 ぶっちゃけ、魔物退治やらなんやらがあるのだ。「冥神(みょうじん)の人たちの『前』の段階がしたい」、つまり「怪異な事件が起きる前に、異変の芽を摘みたい」という杏(きょう)さんに触発されて、もともと自分から始めたことだったんだが、そのことを爺さん……天宮流神仙道宗師に伝えたら、「いい修行になる。『白修祓(つくもしゅばつ)』の予備修行にもなる」とかで、連絡した二日後ぐらいには、それ専用の修行メニューとか、妙な「スケジュール表」まで送られてきた。
 そんなわけで、帰省している余裕がない。もっとも、夏休みなんかの長期休暇の期間みたいに、一定期間「毎日朝から晩までビッチリ修行漬け」ってわけではない。ないんだが、それでも、帰省している余裕まではないわけだ。

 その夕、部屋で修行メニューの次第書や、携帯で向こう一週間の「スケジュール(なんのスケジュールか、までは言わねえ)」を確認していると、杏さんから電話がかかってきた。
『竜輝はん、明後日(あさって)なんどすが。ご都合、よろしやろか?』
「都合?」
『へえ。宝條に、新しい喫茶店がオープンしてるんやけど、ご存知ですなあ?』
 宝條の、新しい喫茶店。……ああ、「シエスタ・カプリチョ」か。この二月の下旬に、「エテールノ・ジョイア」っていうスイーツ専門店がなくなった、そのあとに入った店だな。狭いけど、雰囲気のいい店らしい。入ったことはねえけど。確か、開店して、まだ一週間ぐれえじゃなかったかな?
「ええ。知ってますけど。それが何か?」
『なあなあ、入って見ぃひん?』
「え? 別に構いませんけど。ていうか、別に俺を誘わなくても、一人で……」
 そう言いかけたら、それを遮るように、杏さんが言った。
『え……とな。ウチな、竜輝はんと、二人きりで入りたいんや』
「……それはつまり、珠璃とか、友だち抜きでって、ことですか?」
 ハッキリとは答がなかったけど、電話口の向こうで、頷く気配があった。
 で、とりあえず、考えてみたわけだ。
「……なんか、企んでますか?」
『へ? 竜輝はん、なに言うてるの?』
「だから、何か予知して、何か企んでるでしょ、あなた?」
 しばらく間が空いて、いかにも不服そうな杏さんの声が聞こえてきた。
『なんや、ようわかりまへんけど、もしかして、竜輝はん、ウチのこと、なんぞ疑うてはりますか?』
「……ええ、思いっきり!」
 また、しばらく間が空いて。
『心外やなあ。ウチ、竜輝はんにご迷惑おかけしたこと、一度でもありましたか?』
「……お望みなら、列挙して差し上げましょうか?」
 去年のスイーツ勝負に始まり、クリスマスイブの一件とか、三月の演劇部の定演の件とか、ついこの間の和風喫茶の件とか。
『うーん。ウチ、なんかしたかなあ?』
 本気なのか、ボケなのか、よくわからねえ口ぶりで杏さんは言う。そして、またまた間を空けて、杏さんが、おずおずといった感じでこう言った。
『なんか勘違いなさってる、思いますけど。明後日は、ちょっと用向きが違います。なんていうか、どうしても、竜輝はんにお話ししたい……いいえ、聞いて欲しいお話があるんです』
「聞いて欲しいこと?」
 その口調が、あんまりにも真剣だったので、俺は聞き返した。すると、電話の向こうで、ほんの少しだけためらったような気配があってから、こんな言葉が聞こえた。
『珠璃はんにも、内緒で、竜輝はん、お一人で来て欲しいのです』
 珠璃にも内緒で? なんか、尋常じゃねえな。だから、俺は時間を約束して、電話を切った。


次の回 → ■ 目次

■ 小説&まんが投稿屋 トップページ
アクセス: 128