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作品名:今日も杏とて。episode.6、out of numbers.3 作者:ジン 竜珠

第8回 out of numbers.3−3
 勝った、と仙滿が思ったとき。
 咳払いがした。
 そちらを見ると、居間の入り口に一つの姿。
「え? 胡桃?」
 今度は、仙滿が頓狂な声を上げた。
 まったく気配を感じなかった。輝鵬も同じらしく、驚いている。確かに、お喋りに夢中になっていたところはあったと思う。それでも、こんなに近くに来るまで、まったく気配にすら気づけないというのは……。
 仙滿たちがそんなことを思っているのを察したか、胡桃が言った。
「これでも『冥神(みょうじん)』なんていう、秘密部隊にいるからね。穏形(おんぎょう)・気配断ちは、まず一番に磨くべき技能だし」
 そうだった。胡桃は宗家が結成した秘密組織「冥神」の一員だ。それ故、普通の道士とは少しばかり方向性の違う修行もやらされている。
「どうしたの、胡桃、急に?」
 本当に急だ。もうすぐゴールデンウィークだから、帰省してくることも予測の範囲内だが、こんなに急だとは思いもしていなかった。だから、今、聞いた声にも、少し驚きがあったと思う。
「珠璃ちゃんがね、昨日の朝、『お父様が帰ってらっしゃる気がする』って言ったから。それに、今年はゴールデンウィーク含めて、何日か前から、長目のお休みがとれたし、何より驚かせようと思って」
 そう言った胡桃の声に、どこかトゲのようなものを感じながら、仙滿は応えた。
「そ、そう、珠璃ちゃんが」
 珠璃は異常に勘が鋭いが、まさか仙滿たちも、そのとんでもなさを実感することになろうとは、思いもしなかった。
「ところで、竜輝のお嫁さんの話をしてたみたいだけど。……なんで、あたしの名前が出てこないの?」
 それに輝鵬が応えた。
「いや、それはだな、一応、クリアな立場で物事を考えてだな」
 アタフタとしていて、言い訳にさえなっていなかった。
「胡桃のことを、すっかり忘れてたな、この男」とは思ったが、実は仙滿も胡桃のことは、全然頭になかったので、輝鵬を責められない。
「あたしもね、竜輝と珠璃ちゃんはお似合いだと思うから、二人の間に割って入るつもりはなかったけど。でもね、親にまでそんな風に思われてるのは、ちょっと屈辱だなあ」
 静かな声だが、こめかみに、青筋が浮かんでいるのが見えた。
「あのね、胡桃。あなたもわかるでしょ、いろいろと縁(えにし)ってあるって?」
「お母さんとお父さんも、昔は、今のあたしと竜輝のような関係だったって聞いてるけど?」
 うまく言いくるめようとしたが、通じそうにない。
 そもそも、その「因縁」まで見通せるのは、宗師ぐらいだろう。それは胡桃にもわかっているようだ。
「決めた!」
「決めたって、何を?」
 いきなり何事か言い出した胡桃に不安なものを感じつつ、仙滿は聞いた。
「あたし、珠璃ちゃんに竜輝は渡さない!」
 意地になっているとは思うが、胡桃がかつて竜輝との将来を真剣に考えていたのも、知っているから、仙滿には何も言えない。


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