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作品名:今日も杏とて。episode.6、out of numbers.3 作者:ジン 竜珠

第1回 episode.6−1
 珠璃(じゅり)たちが運営している「心域の砦」は、ウィークデイは、午後八時まで、となっている。学園の校則上、珠璃はここの事務所のような業種では、午後六時半までしか働けないことになっているが、常に守っているわけではない。もちろん、バレたらそれなりにペナルティーがあるが、一切気づかれることのないように、咒術を使っていることはいうまでもないだろう。
 この日は、名目上の運営者である石動紗弥(いするぎ さや)も来ていた。時刻は午後六時四十分。紗弥は、仕事が忙しいこともあって、ここにいることは、ほとんどない。今日は、たまたま時間が空いたので、顔を出したということだった。
「紗弥はん。なかなか言い出す機会がなかったから、言えへんかったんですけど」
「なにかしら、杏(きょう)ちゃん?」
 杏が、珍しく、言いづらそうに紗弥に言った。
「この制服な、もうちっと、なんとかなりまへんやろか?」
 珠璃たちが着ているのは、ここの制服だ。黒いシャツに赤いネクタイ、バーバリーチェックのプリーツスカートに、黒いオーバーニーソックス。アイヴォリーのジャケットだ。珠璃は、この制服に不満はないが……いや、言わせてもらうならジャケットやシャツに、最低でももうワンポイント、欲しいところだが、文句をつけるほどのことではない。実際、珠璃はジャケットの左胸にバイオリンをモチーフにした小さなブローチ、シャツの両襟に、赤いバラの花をモチーフにした襟章風の襟止めピンを、付けている。
 だが、杏はこの制服に不満があるらしい。それはなんとなく感じていたが、具体的に聞いたことはなかった。だから、興味を持って、二人の会話を聞いた。
「なんとか? でも、杏ちゃん、こんな感じの色使い、好きでしょ?」
「へえ。確かに、ウチ、こういう色、好きです。目ぇの覚めるヴィヴィッドカラーよりも、こういう落ち着いた色の方が。そやのうて、ウチが言うとるのは、デザインです」
「デザイン? 私と、凉(りょう)と、胡桃(くるみ)の三人で、杏ちゃんや珠璃ちゃんに似合うようなデザインにしたつもりだけど?」
「それは嬉しいのどすが。でもな、なんていうか。高校卒業して、膝丈のヒラヒラのスカートやら、ボディーラインがわかるようなシャツやらと、ようやっと縁が切れた思うたのに、また、こんな服、しかも、前よりも丈の短いスカートいうのんは、ちょっと抵抗が……」
「なに言ってるの、杏ちゃん!」
 と、紗弥が困ったような、ちょっと怒ったような顔をした。
「あのね、カワイイ子とか、美人はね、男の妄想をかき立てる格好をしなきゃならないの! ある程度はね、男が望むだろう服装をするのが、美女の義務なのよ!?」
 紗弥の言うことは極論だとは思うが、珠璃も、少しは理解できる。言い方は悪いが、自分の「美」「魅力」を自覚していたら、それを発揮して、人々の目を楽しませるのは、世の中を楽しくする上で、必要なことだと、珠璃も常々思っているのだ。
 だが、杏はそうではないだろう。
「それは、ウチにもわかりますけど」
「ああ、わかっちゃうんだ」
 思わず、そんなことを言った口を、手でおおう珠璃を見た杏と紗弥だったが、それはとりあえず置いておいて、二人は会話を再開した。


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