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作品名:今日も杏とて。extra episode.1 作者:ジン 竜珠

最終回
「袖振り合うも、多生の縁っていいますやろ? 竜輝はん、今日はウチらで、このお店のお手伝い、しまへんか?」
「手伝い? 何言ってるんですか、あなた?」
 俺の言葉を聞いていないかのように、杏さんが言った。
「ホンマは給仕さんがええんやけど、衛生面で監督署から文句言われても、おもろないからなあ、このお店の宣伝は、どないです?」
「宣伝、って、杏さん、急にそんな話、振られても」
 と、俺が言うと、杏さんがトートバッグから角ゼロサイズの封筒を取り出した。
「こんなこともあろうかと、一昨日の夜、チラシ、作っておきました。ウチ、パソコンとか、詳しこと、わからんさかい、紗弥はんに教わりながら、一所懸命、こさえましたんや! あとはこれに『鈴花堂』って名前を入れたら、OKやなあ」
 と、充実感たっぷりの笑顔で、俺に封筒を寄越す。
「へ、へええ……。『一昨日』のうちに、チラシ、『作っておいた』んですか……。紗弥さんまで巻き込んで」
 笑顔で頷き、杏さんは続ける。
「竜輝はんたちの『お形(なり)』も、X−FMいう貸衣装屋さんで、予約しておきましたさかい、今から行きまひょ?」
「……服も手配済みッスか。いつもながら、手際がいいですねぇ。とりあえず確認しますけど、なんか予知してましたね!?」
「竜輝はん。乗りかかった船や。ここで降りるんは、不粋ですえ?」
 と、彼女はいつものような、何か企んでそうな笑みを浮かべる。
 乗りかかるもなにも、あんたが勝手に俺らを甲板に上げたんでしょうが!
 言いかけて、やめた。確かに、ここまで話が進んだら、断るのはちょっと気が引ける。

 というわけで、俺は白いドレスシャツに、チャコールグレイのベストに黒い上下のスーツ、臙脂色の蝶ネクタイに白手袋。珠璃は紫を基調にした矢絣(やがすり)に桃色の袴、黒いブーツ。麻雅祢は赤い着物に桜色の袴、ダークブラウンのブーツ。
 この格好で表通りに行ったり、オフィスに行ったり、ってことをさせられた。「許可もろてへんから、お巡りさん、見かけたら、隠れてな?」っていう、物騒なアドバイスを胸に。
 目立ってしょうがないが、売り子だから目立たないとならねえ。ついでに言うと、麻雅祢はポニーテイルに結っているが、そのリボンは杏さんが持参したものだ。
 ……。もう、何も言うまい。
 ちなみに杏さんは、売り子になってない。
「竜輝はん。世の中はな、輝くべきお人が、輝くべきなんや。わかりますやろ?」
 うん、これで、この人が自分自身は「表に出る」とか「目立つ」とか、「めんどくさいことは御免被る」っていうスタンスだっていうのが、よっくわかりました。……俺たちだったら、どうでもいいのね?
 で、俺たちがビラ配りをやってる間、杏さんは何をしていたかというと。
「ウチらが勝手にやらせていただいてることやさかい、バイト代が欲しいとは、申しまへん。でも、もし『心苦しい』とか、お感じやったら。定価の半額、いえ、八割で、ええんです、そのお値段で、こちらの商品、新作も含めて、全品、お試しさせてもらえまへんやろか?」
 ……新手のサギみてえなことを言って、美悠那、ありすと三人で、スイーツをシェアしながら食ってた。

 珠璃がこんなことをボヤいたのが、印象的だった。
「ボクも、まだまだ、未熟だね」
 この言葉には、実に「いろいろな」意味が込められているのが、俺にはわかった。


(今日も杏とて。extra episode.1・了)


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