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作品名:今日も杏とて。extra episode.1 作者:ジン 竜珠

第1回
 土曜日、午後二時。
 俺は、珠璃(じゅり)と麻雅祢(まがね)と一緒に、宝條の市電駅前に来ていた。
 今日は、杏(きょう)さんがやっているスピリチュアル相談所は、休みだそうだ。杏さんは、市内の大学……ミハシラが経営母体だそうだが、そこの教育学部を履修している。で、土曜日は、学生たちによる自主的な模擬実習や、担当教官を交えたインターン・シップの講習会なんかがあるんで、基本的には事務所は休みなんだそうだ。
 今日、ここにいるのは、杏さんから、映画に誘われたからだ。なんでも、何らかの相談事を解決したお礼に、依頼人から映画の優待券をいただいたんだそうだ。で、俺たちを誘ったということ。
 零司(れいじ)さんは、所属している歴史研究サークルの活動があるということで、都合がつかず、鷹尋(たかひろ)も部活があるんで、やっぱり都合がつかなかった。
 俺は、先約があったけど、キャンセルになったし、珠璃も麻雅祢も特に用事はなかった、ってことで、「それなら」と、杏さんにつきあうことにしたわけだ。
 待ち合わせ場所で待ってると、杏さんがやってきた。白とピンクの太めのストライプ柄のサマーニットに、丈の長い紺色のジャンパースカート(っていうの?)、丈の長い、白い上着(珠璃に聞いたら、「チェスターコート」っていうそうだ)を着て、トートバッグを持ってる。何となく、ボディーラインを隠そうとしているように感じるな。この人、かなりスタイルいいと思うけど、いつもこんな感じの服装だよな。
 まあ、別に普段着に何を着ようと、個人の勝手だし、むしろ、杏さんはこういう格好の方が似合うと思う。
「お三人さん、お待たせしました」
 笑顔で、杏さんは俺たちのところへ来る。一昨日、電話してきた時は、嬉しそうな感じだったし「前から観たいと思っていた映画」って感じの話をしていたから、彼女も楽しみにしているんだろう。
「さ、早う、行きましょか」
 そう言って、杏さんは先頭を歩き出した。
「珍しいな、杏さんの、こんな楽しそうなところ見るの」
 俺がそう言うと、珠璃も笑顔で頷いた。
「そうだね。杏さんって、映画とか本が大好物らしいから」
 あと、二時間ドラマとかサスペンスにも、目がないって言ってたな。

 しばらく歩いて、俺たちが来たのは、宝條のシネコンだ。
 中に入ったところで、上映案内の表示板を見ていた杏さんの動きが止まった。
 ? 上映時間が違ったのかな? 早かったのか、遅かったのか。
 俺がそう思った時、杏さんが、チケットを出して、何かを確認した。
 そして、溜息をついて、うなだれる。
「珠璃、杏さん、どうしたんだ?」
「さあ?」
 俺が首を傾げると、珠璃にもわからないようで、こいつも首を傾げた。
 ややおいて。
 杏さんが、明らかに気落ちした表情で俺たちを見た。
「このチケットな、レイトショーのものやってん。しかも今日まで。ウチ、今夜は都合があって、来られへん」
 レイトショーか。それじゃあ、俺たちも無理っぽいな。千京市の条例がどうなってるかは、知らねえけどさ。
 それ以前に、杏さん抜きで、映画観ても、面白くねえし。
「この映画自体、昼間は、どっこも上映してへんし」
 と、杏さんが表示板をいくつか眺めて、また溜息を漏らした。


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