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作品名:今日も杏とて。out of numbers.1 作者:ジン 竜珠

最終回
 俺は、どう言ったらいいか、少し考えてから言った。うかつな表現を使うと、誤解されかねないからな。
「『打ちのめされたり、自分の流した涙で溺れ死にそうになっても、最後には立ち上がって、顔を上げて笑顔を浮かべてる』、そういう人間のことなんだ」
 白上が、また首を傾げた。やっぱりわかりにくいか。
 まあ、そうだよな。俺たちも、修行で自分の醜い面やら、業(ごう)やらと向き合わされてなかったら、多分、同じことを聞かされても理解はできねえと思う。
「例えばだな。生きてると、いろいろとあると思うんだ。いいことも悪いことも。そんで、いいことだけじゃなく、悪いことも受け入れる人間のことなんだが、……わかんねえよな?」
 白上が頷く。
 ああああ、どういったら、うまく伝わるかな!?
 いろいろと考え、俺は、違うと例え話をすることにした。
「ヒーローものとか、二時間ドラマとか、主人公がピンチになるから、そのあとの勝利が輝いて見えるし、胸もスカッてするだろ? ああいう感じ。どんなに苦しい状況になっても、最後には、笑っていられるような、心のしなやかさを持った人間のことなんだ」
「じゃあ、だめだ。僕は、心が弱いから」
「いや、心が強い人間なんて、そうそういるもんじゃねえから!」
 弱くて、矛盾を抱えてるからこそ、人間なんだしな。……その意味でも、杏さん、もう人間じゃなくなってるかも知れねえ。
 それに。
 杏さんには、予知能力がある。その際に視える未来は、変わる可能性を持ったものだという。そもそも変わらない未来は杏さんには視えないらしい。
 それこそが、彼女曰く「神さんのご配慮」なのだという。その考えは、俺も納得している。変更不可能な未来が視えたって、意味ねえしな。
 彼女が、男子を振り回す理由は、「それ」だと、俺は思っている。色々と惑わして、いかに彼女の予定調和を崩せるか? それを杏さんは見てるんだと思う。
 暗く沈むんじゃなく、明るく笑顔になれるか、それを、彼女は試してるんだと思う。
 ……言えねえわなあ、予知がどうのって。
 だから、こう言うことに。
「男子をもてあそぶっていうのも、違うな。今も言ったように、杏さんは、相手の心のしなやかさを見たいと思ってるんじゃないかな? だから、わざと困らせて、相手がどう出るか、ていうのを確認してるのかも知れねえし、あるいは、無理難題をふっかけて、どう切り返すのかを見てるのかも知れねえ」
「なんか、『かぐや姫』みたいだね」
 やべ! 完全に誤解した! そういう「言うことを聞いたら、おつきあいする」とかいった「即物的なこと」じゃなくて、杏さんが見てるのは、「相手の心構え」なんだが!
 どうにか、その認識を変えさせようとした時、白上が言った。
「やっぱり、僕は、彼女の前には立てない。僕は、どっちかっていうと、マイナス思考の人間だから。多分、彼女が期待する『強くてしなやかな心』の姿は見せられないと思う」
 ……なんとか、伝わってるみてえだな。よかった。
「そういえば、白上、なんで、いきなり、そんな話を俺にしに来たんだ?」
 そもそも論だ。なんで、わざわざ、こんな話をしに来たのか。
 俺の言葉に、白上が、少し困惑したような笑顔を浮かべた。
「ほら、さ。この学校で、いろいろと悪い噂とか、あったじゃない? だから、バイト先でも、同じような噂がたってたら、彼女、悲しんでるんじゃないかなって思って。それで、天宮くんが親戚だっていうのを思い出して。なんていうか、心配だったから」
 なるほど。
 もし、杏さんが落ち込んでたら、親戚である俺に彼女を励ますように頼もうってことか。
 あの人は、そんな心配はいらねえぞ、マジで?
 それはともかく。
 俺は、改めて思った。
 白上のような、こういう人間が、報われない世界は、絶対に間違ってる。
 俺の力なんざ、たかが知れてるが、多くの人が笑顔になれるような世界にするために、できることはなんでもしねえとな。


(今日も杏とて。out of numbers.1 了)


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