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作品名:今日も杏とて。out of numbers.1 作者:ジン 竜珠

第2回
 お茶を飲んでいると、俺に声をかけてきた奴がいる。
「天宮くん」
 振り返ると、そこにいたのは、三年になって、同じクラスになった白上(しらかみ)晃一朗(こういちろう)だ。優流とは、対照的に、おとなしい感じの男子で、柔らかい雰囲気を持ってる。派手とか活発じゃなくて、地味なやつだが、穏やかで、いいやつだ。
 こいつのことを「軟弱」とか言う奴らもいるけど、ものは考えようだ。こういう人は、人の痛みを理解することができる。
 辺りを確認するようなそぶりを見せて、白上が俺のそばに来た。
「君、この三月に卒業した、天宮杏先輩の、親戚だって聞いたけど?」
「ああ、そうだけど?」
 俺が答えると、しばらく何かを考えていたらしい、白上が、まるで犯罪者が罪を告白するような面持ちで、言った。
「実は、僕、天宮先輩のことが好きだったんだ。でも、見てるだけしかできなくて。それに、こんな僕なんか、相手にされないと思ったし。だから、この想いにふたをして」
 そして、ちょっとだけ、深い息を吐く。
「それで、この間、宝條にある、なんかの事務所でバイトしてるのを見て、また、彼女への思いが募ってきて。それで、想いをどうにも抑えられなくて。でも、やっぱり僕なんかは……」
 あー。確かに、杏さん、モテてたしな。こいつも、その一人か。でも、杏さんに想いを寄せてたのを、まるで罪のように感じる必要は、ないんじゃねえかな? 変な行動に出なければ、誰が誰を好きになろうと、自由だし。
 ふと、白上が空を見上げ、そして、何かを切り替えたかのように俺を見た。
「噂で、いろいろと聞いたんだ。彼女の好きなタイプは『面白い人』だって。それに」
 と、少しだけためらうような気配を見せて、言った。
「言い寄ってきた男子を、もてあそぶ『悪い女』だって」
 それは俺も耳にした。確かに、杏さん、男子と真剣につきあっていないようだった。だから、「もてあそぶ」っていう悪い風評が立ってたのも知ってる。だが、それはちょっと違うんじゃないかと、今は、思っている。
「僕、お笑いとかあんまり見ないし、シャレたことが言えるわけじゃない。だから、彼女の前に立てなくて。それに、彼女を擁護したいけど、できなかったし。何より、彼女の噂を否定できなかったのが、悔しくて」
 ……。
 なるほど。自分は、杏さんのいう「面白い人間」ではないから、杏さんに告白できなかった。でも、こいつなりに、杏さんをかばいたかった。が、それすらもできなかったってことか。
 いい奴だな、こいつ。杏さんと想いを通い合わせられるかは、別問題だが、こういう人間が報われない世界は、どこか狂ってるな。
 俺はお茶を一口飲み下して、言った。
「えっとな、白上。杏さんの言う『面白い男』っていうのは、お笑い芸人みたいにギャグを飛ばせるとか、ドラマの登場人物みたいに、気の利いたセリフをぶちかませる人間っていう意味じゃねえんだ」
 俺の言葉に、白上が首を傾げた。


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