小説&まんが投稿
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:今日も杏とて。episode.1 作者:ジン 竜珠

第2回
 四月に入って、最初の土曜日の夕方だった。
 市の中心部「宝條(ほうじょう)」というところを一人で散策していた時。
「あれ? ここ、空きテナントだったよな」
 あるテナントがあって、一月まで、なにかの事務所が入っていたが、撤退したか、なにかで、久しく空いていた。
 それが、今は、何かが入っている。看板には「スピリチュアル相談所 心域(しんいき)の砦(とりで)」とあった。
 スピリチュアルか。
 私は、興味を覚え、中に入った。

 中にいたのは、どう見ても女子高生と思しき、二人の女性。二人とも、アイヴォリーのジャケットに、黒いシャツ、赤いネクタイ。薄茶色の地に黒と白で構成されたバーバリーチェックのプリーツスカート。黒のオーバーニーソックスだ。おそらく、ここの制服なのだろう。
 一人は前髪で左目を隠したショートヘアに、眼鏡の美少女。猫のような顔立ちで、どこか余裕を感じさせる笑みが印象的だ。
 そしてもう一人は。
 艶のあるストレートの黒髪は、腰まである。その面差しは細面(ほそおもて)で、目は切れ長。口元に浮かべた柔らかな笑みは、何か企んでいるような印象を与えるが、それ以上に安心感を与えてくれる。間違いなく美人だ。
 二人とも、スタイルは申し分ない。ここで、私の心に不安がわき起こった。
 ここは、アイドルが、なにかの番組でやっている企画ものではないだろうか? 二人とも、芸能人といっても通じるほどだ。
 もし、そうなら、面倒事になる可能性もある。見世物になるのは、勘弁願いたい。
 そう思って、一度開けたガラスの引き戸を、閉めようとした時、ロングヘアの少女が言った。
「坂村(さかむら)三郎(さぶろう)はんですなあ? お待ちしてましたえ」
 穏やかな笑みで。
 「……え?」
 私は、心臓が止まる思いだった。
 初対面のはずの私の名前を、なぜ、この少女は知ってるのか。
 驚きと同時に恐怖さえ覚えた。
 私の困惑に構わず、少女が言った。
「この時間あたりにお見えになることは、わかってましたさかい、失礼やとは思いましたけど、少々、調べさせていただきました。女学生の霊のことで、ご相談に見えられた。それで、よろしか?」
 言葉が出せない私に、ショートヘアの少女が言った。
「とりあえず、ソファにおかけになってください。立ち話も、どうかと思いますので」
 私は、その笑顔と言葉に従って、事務所に入った。
 もう、私は疑っていなかった。
 アイドルだったとしても、彼女は、人知を超えたものを持っている、と。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 小説&まんが投稿屋 トップページ
アクセス: 17