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作品名:今日も杏とて。episode.1 作者:ジン 竜珠

第1回 1
 おととし、、私は課長職を拝命して、この千京市(せんきょうし)に転勤になった。ここ千京市は、昔からコングロマリット企業の最大手「ミハシラ・コーポレーション」の勢力圏内だ。もともとミハシラは、明治期にここで産声を上げた「御柱商会(みはしらしょうかい)」が前身となっている。その関係上、この市はミハシラのものといっても過言ではない空気さえある。
 泣き言だというのはわかっている。要は、そういうことなのだ。
 我が社は、来年をもって、千京市から撤退することを決めた。そのためいろいろと残務処理をしなければならない。私が課長として、ここに出向してきたのも、そのためだ。
 正直、「辛い」の一言でしかない。ここで負ったマイナスを、いかに小さくできるか、最低限の損失に抑えられるか。多少の損失を出しても「サービス」の質を落とさずに、「次」に繋げることができるか。まず第一に、そこに意識を持っていかねばならないのだ。
「守り」を第一に考え、なおかつ「攻め」の姿勢をも持つ。これがどれほど負担になるか、想像して欲しい。

 この市で私が居を構えているのは、市の北部の北斗(ほくと)というエリアだ。ここに、我が社の社宅があるのだが、ここも、来年の六月には、引き払うことになっている。
 私は、あまり往生際のいい方ではない。だから、あわよくば形勢逆転を目論んで、スピリチュアルに、随分と手を出した。盛り塩に始まり、仏像、神像、真言、方位取り。私に実行可能なものは、いろいろと手を出した。
 だが、いい結果は出なかった。それどころか、社宅で奇妙な現象が起き始めたのだ。といっても、俗にいう「ラップ現象」とかいう、奇妙な音が響く現象とか、「ポルターガイスト」とかいう、ものが動き出すとか、そういう現象が起きているわけではない。
 北隣の市から、女の子が社宅の近くまで、やって来るのだ。多くの社員が目撃しているし、私も見たことがある。年齢は十五、六歳だろうか? いわゆる「女学生姿」だ。
 その手の、いわゆる「霊感師」という人に視てもらったら、「隣の市にいる女の子の霊が、何らかの理由でこの社宅に来ようとしているものの、おそらく隣の市にある『何か』に行動を束縛されていて、社宅の手前までしか来られない」のだという。
 実害はないから、放っておいても大丈夫、とのことだったが、あまり気持ちのいいものではない。
 考えてみて欲しい。隣の市から、女の子が歩いて来て、社宅の近くで立ち止まる。そして、哀しそうな顔をする。それが、場合によっては、一日に何度も視えるのだ。
 妻や社員たちも気持ち悪がっていて、プライベートだけでなく、仕事にも差し支える。
 そこで、その霊感師に「除霊」なるものを行ってもらったのだが、まったく効果はない。
 だから、哀しそうな顔をして、少女が社宅敷地の手前で立ち止まるのを、毎朝、毎晩のように視ることになっている。

 だが、それだけじゃない。最近では、社宅の空気も澱(よど)んできたような気がするし、体調を崩す者も増えた。
 私も、原因不明の発熱や倦怠感に苦しめられている。
 精神的な疲労だとは、いわれたのだが……。


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