なんていうかね。姉貴も紗弥さんも、助けてくれなくてね。姉貴曰く「それは響堂くんの問題であって、お姉ちゃんが何か、言うことじゃないでしょ?」だそうで。 うん、その通り。 『申し訳ありません、竜輝さん。私は社会人ですので、感性が違います。高校生の感情の機微といったことに、適切なアドバイスができるとは思えません』 とは、仕事中だったらしい、紗弥さんのお言葉(仕事中に電話して、申し訳ありません!)。 多分、その通り。 でも。 何故だろう? 二人とも、この状況を楽しんでるようにしか思えなかったんだけど? ていうか、二人とも「高校生」を経験してるよね? 確かに、天宮流神仙道の修行を小さい頃からしてるから、普通とは違ったと思うけど、それなりに「青春」したんじゃねえの? 凉さんは『今、それどころじゃないって知ってるだろ!?』だったし、珠璃に至っては「ここで零司さんの役に立って、自分をレベルアップさせるのも、いいんじゃないか?」なんて、お気楽なこと言ってやがるし。 俺は、のろのろとベンチから立ち上がった。鷹尋には「自分できちんと『お断り』の返事をしろ」とは言えたんだがな。 俺は伸びをして教室へ戻ろうとした。 すると、本校舎から、実習棟へ向かう麻雅祢がいた。 俺に気づいたのだろう、渡り廊下から出て、麻雅祢がこっちに歩いてきた。 「竜輝」 と、麻雅祢が俺を見上げる。 こいつ、感情が表に出てこねえからな、何を考えているのか。 麻雅祢が俺を、じっと見て言った。 「協力して欲しいことがある」 「協力? なんだ、珍しいな?」 「放課後、一Bの教室に来て欲しい」 こいつは一年B組だ。何の用だ?
で、放課後、掃除が終了した頃に、その教室に行くと。 麻雅祢と、おそらく同じクラスだと思われる男子生徒がいた。他に生徒はいない。みんな帰ったか、部活動に行ったのか。しかし、こんなことは珍しい。どこの教室でも、たいてい何人かは残ってて、だべってたりするんだがな。そう思ったら、かすかに咒力が感じられる。 そうか、麻雅祢が「人払い」の結界を張ったか。 麻雅祢が俺の近くに歩いて来て言った。 「この人と、今、おつきあいしてる」 ……え? 男子生徒が目を見開いた。 「ええっ!? 橘さんの恋人って、天宮先輩なの!?」 ……ええっ!? 「どういうことになってるんだ、麻雅祢!?」 「どういうことなんだよ、ねえ、橘さん!?」 俺と男子生徒の声が重なる中、麻雅祢が無表情で言った。 まず俺に対して。 「塚本くんには、直接、竜輝を会わせた方がいいと思ったから」 そして(おそらく「塚本」という)男子生徒に対しては。 「生徒会長の鬼城さんには、許可、もらってるから、問題ない」 まったく、話が見えねえ。
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