新輝祭も終わり、俺のギプスもとれた。まだ、違和感はあるが、とりあえず日常生活には問題はねえし、四、五日したら、軽めのものなら、筋トレとかも再開できそうだ。 だが、珠璃は相変わらず、ウチにいるんだよな。 姉貴曰く「珠璃ちゃんがいると、本当に助かるわ」とのこと。 「お料理、手伝ってもらえるし」 これはまだわかる。 「珠璃ちゃん、お風呂で、竜輝の身体とか、髪とか洗ってやってくれる? この子、まだ腕とかうまく動かせないから」 待て。 「もしかしたら、夜中に腕が痛むかも知れないから、お薬飲ませるために、一緒のお部屋に寝てやってくれるかな?」 ちょっと待て。 「ベッド、ダブルに買い換えるわね」 「いいから、待て!!」 俺は珠璃を残し、姉貴をリビングから、玄関まで押し出した。 「何言ってんだ、姉貴は!?」 房中術の修行とかあるだろ!? そんなことを言うと、姉貴はケロッとして言った。 「それなら問題ないわよ? 火曜日ぐらいから、金曜日の夜、だから、ゆうべね。四日かけて、お姉ちゃんから珠璃ちゃんに伝授しておいたから。まだ、初伝の入り口だけど」 ……。 「なあ、姉貴。あれって、一応『秘伝』なんだが?」 「宗師には、許可をいただいたわよ?」 「なッ!?」 何考えてんだ、あのクソジジィ!? 「『身内が許嫁(いいなずけ)を決める、そんな時代でもあるまい』って、大笑いなさってたわ」 これはあれか、イザナミの件が片付いて、代々抱えていた懸案事項が解決したから、もはや、色んなことが、どうでもいいと? どこまで雑な考え方してるんだ、あのジジィは!? 「珠璃ちゃん、飲み込みが早いわよ。あれなら、大丈夫」 「何が?」 俺の問いには答えず、姉貴が不意に真剣な顔になった。 「竜輝」 「……なに?」 その表情があまりにもまじめで、俺は思わず姿勢を正した。 「あたしと竜輝、『姉と弟』っていうことになってるけど、戸籍上は他人なの。だから、法律上、結婚は問題ないの」 「……。すまん、姉貴。それぐらい、知ってるんだが?」 天宮流神仙道宗家では、家を継ぐと見込まれたものが男の時は姉を、女の時は弟に、それぞれ当たる子どもを高弟の家から、子どもとして迎える。しかし、戸籍上は他人だから、結婚することもできる。結婚した人もいたし、そうでない人もいた。それぐらいは、俺も宗師から聞かされている。 「つまりね、お姉ちゃんは竜輝と結婚できるけど……。あたし、『二号さん』でいいから」 「はいぃ?」 「竜輝と珠璃ちゃんの間に割り込むつもりはないから、お姉ちゃん」 「悪い、本気で理解できねえんだけど、姉貴の言わんとするところが?」 「あたしって、『耐える女』よね?」 そんなことを言った。 真顔で。 いや、笑いこらえた顔で。
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