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作品名:神氣学園終劇之傳 作者:ジン 竜珠

第8回 傳之捌
 そのあとは、完全なアドリブ大会だった。
 最初はね、こういう展開だったんだ。
 俺が、被疑者を指摘する。一度は否定する被疑者。だが、その被疑者も殺害される。
 実は俺がその被疑者を、最初の女性殺しの犯人だと指摘してしまったために、女性の恋人によって、報復で殺害されてしまったのだ。被疑者の殺害動機は、仕事上のトラブルだった。
 その恋人は自分が怪しまれないように、アリバイを用意していた。心理誘導で、被疑者が足場があると思い込んで、高所から墜死する。その時間、恋人はわざと警察署を訪れて、警察官に目撃される。
 その真相を突き止めた俺は、軽率な行動から、被疑者を死なせ、本来被害者の一人だった人物を、犯罪者にしてしまったことに気づき、自己嫌悪に陥る。そこを珠璃が慰め、お互いの想いを確認し合って、終わる。
 それが、こんな話になってしまった。
 被害者の女性は、幻覚作用を持つお香を常用していた。被疑者は、実は被害女性とつきあっていたが、別れ話を切り出され、彼女を殺害。
 俺は美味しくもないスイーツを、皆が美味しいと言っているところから、幻覚作用のお香に気づく。一方、被疑者は、お香の作用で、あちこちで被害女性の幻に悩まされる。そして、遂に自死を選ぶ。
 俺は一人の医師から、お香の話を聞かされ、さらに、その線からお香の元になった違法ドラッグを扱う売人に行き当たる。
 その売人は、被害女性の従兄弟だった。事件解決後、お香のせいで一時、夢遊境にいた恋人、つまり珠璃を、俺の愛が救う。
 ちなみに、刑事だった零司さんが、「医師」、「売人」が鷹尋、被害女性の恋人が優流でこいつは第三幕で鷹尋に殺され、最初に被害女性の恋人役だった部員が、刑事だ。
 ちなみに、鬼や、栂さんたちは、お香のせいで見た、集団幻覚ということになっていた。
 無茶苦茶だが、このアドリブを、演劇部の連中、見事にこなしたんだよなあ。
 すげえよ、マジで。

 俺たちは、学園にある生徒会本部で、打ち上げをしていた。ここにいるのは、いつもの六人だ。演劇部からは、彼らが開催する打ち上げに誘われたんだが、いろいろと事情があるということを杏さんが匂わせたからな。それ以上は、向こうも誘ってこなかった。
 零司さんが言った。
「杏。お前、何にも考えてなかっただろう?」
「すみませんなあ。菱森山に、歪んだ道士が現れるんが視えて、冥神の皆さんが苦戦なさるのがわかりましたさかい、こちらでどうにかしよ、思う余り、お芝居のところまでは気が回りませんでしてなあ。なんとか手が打てんもンやろか、思うて、とりあえず福殿はんと、美悠那はんにも、お声がけ、さしてもらいましたけど」
 めずらしく、杏さんが反省しているように見える。
「まあ、いいじゃないですか。ボクはラストで、竜輝に強く抱きしめてもらえたからね、たくさんのオーディエンスの前で。それだけで、十分だよ」
 麻雅祢がぼそっと言った。
「恋人宣言も同然」
 ……。
 まあ、それは否定しねえ。
 珠璃とは、まあ、実質的に、もう「恋人同士」なわけだが、それを公衆の面前で表現しちまったからな。
 感情、こもりすぎてたと、自分でも思うし。
 突然、杏さんが言った。
「なあ、ちょっと聞いてくれませんやろか?」
 一同が、杏さんを見る。
「ウチな、考えましたんや。冥神の皆さんの、前の段階ができんやろかって」
 鷹尋が首を傾げる。
「それって、どういうこと?」
「つまりな。ことが起きてから、動くのが冥神やとしたら、そうなる前に手が打てんやろかって」
 珠璃が頷いた。
「つまり、異変の芽を摘むっていうことですね?」
 杏さんが嬉しそうに頷く。
「せやせや。ウチらでできること、きっとあると思いますのや。幸い、ウチは市内の大学、零司はんは二つ隣の市にある大学への進学が決まってますし。これからも会えるしなあ。あとは」
 と、俺を見る。
「宗家の、ご命令次第や」
 笑顔でそんなことを言う。
 俺に異存のあろうはずはない。
「詳しいこと、考えておいてもらえますか?」
 俺の言葉に、杏さんが、本当に嬉しそうに頷いた。

 俺と珠璃は、帰路についていた。バス停から家に繋がる坂道は、結構長くて、普通の人には、それなりに堪えるものらしいが、俺たちにとっては、なんていうことはない。
 夕日が西に沈むのを見ながら、柔らかな笑みを浮かべて珠璃が言った。
「竜輝」
「なんだ?」
「これからも、よろしくね」
「……ああ」
 俺は、珠璃の肩を抱いた。そして。
 二人、顔を見合わせ、どちらからともなく、唇を重ねた。


(神氣学園終劇之傳・了)


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