その言葉に、どれほどの重みがあるか。 蛍矢さんの表情に緊張が走る。 しばらくして。 「ああ、わかった。それで、あの人を救えるなら、例え、俺の命がどうなろうと……」 「勘違いなさらぬよう、言っておきますえ?」 と、杏さんが蛍矢さんの言葉を遮った。 「神さんは、決して、誰かの命をもって、誰かを救え、とは、仰せになりません。それは『人間考え』が持つ、青臭いロマンティシズムです。誰かを助け、自分も助かる。それが、ほんとの『神の道』です。このあたり、はき違えたら、あきまへんえ?」 そして、杏さんは、なぜか俺と珠璃をも睨む。 ……何かしたっけかな、俺たち? 一瞬、対「黄泉津大神」戦のことが思い浮かんだけど、気のせいだろう。 蛍矢さんはちょっと鼻白んだようだけど、「わかった」と、頷いた。
蛍矢さんと姉貴、珠璃には一足先に、居間に戻ってもらった。ちょっと杏さんに確認したいことがあったからだ。 「杏さん。俺、今、考えてることがあります。それがどう転がるか、視て欲しいんですが」 俺の言葉に、杏さんが柔らかな笑みを浮かべる。 「竜輝はんが何をなさろうとしているのか、残念ながら、ウチには視えてきません。それはつまり、竜輝はんが確実に『その行動』をおとりになる、いうことです。せやさかい、それについて、卦を立てておきました」 すごいな、この人。俺が何をしようとしているか、そこまではわからないまでも、その結果がどうなるか、アドバイスを求めるだろうことを予期して占ってきたのか。 「『火地晋(かちしん)』の五爻(ごこう)、つまり『希望は叶うが、それなりに代償を支払うことになる』。命に関わることやありまへんけど、それなりに竜輝はんも、しんどいことになりますやろな」 俺の心は、決まっていたが、背中を押されたような気がした。 「竜輝はん。ウチにもお手伝いさせて、もらえませんやろか?」 「え? でも」 俺がやろうとしていることは、褒められるようなことではない。むしろ、大バクチだ。だが、杏さんは笑みのまま、言った。 「ウチは、自分の占断の腕に自信を持ってます。『占い』いうのんは、『今』の先に何が起きるのかを視る学問や、ありまへん。どうすればより良い『今』を築けるか、それを探す実践道です。こういう卦が立ったいうことは、竜輝はんが最善の道を選べるお人や、いうこと。ウチは、自分と同じぐらい、竜輝はんを信じてますえ?」 この言葉で十分だった。
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