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作品名:神氣学園甘現傳 作者:ジン 竜珠

第1回 甘現傳 傳之壱
「だからね、歴史的に見ても、バレンタインデーの根拠ってアヤフヤなんだよ」
 もうすぐ二月に入る土曜日の午後一時半、宝條にあるデパート「ニューソウマ」の屋上で、珠璃がそんなことを言った。
 ちなみに珠璃の主張を聞いているのは俺だけ。なので、その話に正統性があろうがなかろうが、オーディエンスは俺だけ。張り合いもないだろうから、おとなしく珠璃の演説を聴いてやることにする。
 ちなみに、学校に行くわけでもねえのに、珠璃は制服着てる。
「根拠が『あやふや』って、あれか? 聖バレンタインの殉教にかこつけた、お菓子メーカーの戦略とかっていう」
 珠璃が首を横に振る。
「そうじゃなくて、聖ウァレンティヌスのエピソード絡みのものっていうこと自体が、あやしいってこと」
 こいつはどこでどんな知識を仕入れているか、わからねえからな。
「三世紀頃のローマで殉教した聖ウァレンティヌスの事績、これを利用して中世に作り上げられたものらしいっていう説が、あってね」
「すまん、結論だけ言ってくれるか?」
 長くなりそうなので、俺は言った。
 仕入れた知識を披露したかったらしい珠璃はちょっと不満そうだったが、それでも、答えた。
「バレンタインデーが近づくと、いろんな特設コーナーが設けられて、スペシャルなスイーツが並ぶ。キミもさっき、見たよね?」
 確かに、この「ニューソウマ」の一階にあるスイーツ専門店とか、食料品売り場とか、変わったところじゃ四階の本屋とか、六階にある食堂街でもそんなキャンペーンやってたな。
「それがどうかしたか?」
「つまりね」
 と、珠璃が眼鏡のブリッジを軽く押し上げる。
「それ以外じゃ、あのスイーツを楽しめないんだよ」
「は?」
「どうして『バレンタイン限定』なんて縛りをかけるのかな? なんでユージュアルに、取り扱わないのかな? そんなことをするぐらいなら、根拠がアヤフヤなバレンタインデーなんて、なければいいのに。そうは、思わないかい?」
「うん、これっぽっちも思わねえ。何、言ってんの、お前?」
 珠璃は大げさに首を振ってみせる。
「やっぱり、竜輝は、もうちょっと、しつけた方がいいね。じゃあ、これから『エテールノ・ジョイア』に行こうか」
「え? 話が見えねえんだけど?」
「こんなこともあろうかと、美悠ちゃんとありすちゃんには、連絡しておいたんだ。制服姿で来るようにって。だから、ボクも制服、着て出たんだし」
 エテールノ・ジョイアっていうのは、千京市内でも有名なスイーツ店だ。イートイン・スペースが結構広くて、学生が結構、たむろしてる。
 ただ、そこのパティシエが常軌を逸した「JK」好きらしくて。でも、それは別に問題ない。そんな性癖を持っているからって理由で、その人物の職能までいちいち否定していたら、社会の多様性がなくなって、たちまちつまらない世界になっちまう。
 ただ、あそこの場合、ちょっと違うんだよな。
 冥神のメンバーで、千京署に勤務している西谷さんが「極秘」で教えてくれたんだけど、あの店のパティシエ、なんか、やっちゃったらしい。千京署が内偵してるそうだ。
 ……と、これは西谷さんが杏さんに、「その件」について占断を依頼した時に、たまたま居合わせた俺と珠璃も耳にしちゃった話。
 珠璃が俺を見た。
「摘発される前に、行っておこうよ。今、バレンタイン企画で、限定スイーツが出てるから」
 そうか。摘発されちゃうのか、あの店。
 いや、今は問題はそこじゃねえ。
「さっき、昼メシ食ったばっかだろ?」
「あれ? 甘い物は別腹だよ? 常識じゃないか」
 当たり前のように言ってのける珠璃に、俺は溜息をつくだけだった。


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