ある休日の昼下がり。人々が思い思いの時間を過ごしている。 ある親子は噴水の傍でアイスクリームを片手に憩い、あるカップルはベンチで、未来に思いをはせ、語らっている。 そこへ、一体の怪人が現れた。 怪人の出現に、誰かが悲鳴を上げる。それが引き金であったかのように、人々の間に狂騒が巻き起こる。 最初に出口へ駆け出したのは、部活動帰りの、女子高生であったか? 逃げ惑う人々の流れに逆らうようにして、一人の青年が怪人に向かってきた。 そして、怪人に向かって、静かに言った。 「ここにいたか、鏡面体(ミラージュ)」 怪人が首を傾げる。 「え? 鏡面体? 何、それ?」 「お前たちの総称に決まってるだろう?」 「名前? え? 怪人、じゃないの?」 それには答えず、青年がノートパソコンのキーボード部分ぐらいありそうな、機材を取り出す。 「お前、そんなデカいもの、何処に持ってたんだ!?」 「? 元素構築による物質化に決まってるだろ? 何を今さら」 「ああ、そんな『設定』があったんだ」 青年が、その機材を左腕に装着した。肘の部分には、まるで折りたたみ式の携帯電話を開いたような、突起がある。その突起部分に、青年が、砂が落ちきった砂時計のようなものを取り付ける。中の粒子の色は、白だ。 青年がその突起を折りたたむと、突起の背の部分にあるディスプレイが光り、そこに砂時計の映像が浮かび上がる。徐々に砂が落ちていくような、そんな映像だった。 これが、一度の「任務執行(へんしん)」に許された「権限発動」のリミットを表しているのだ。 「リバース」 青年が声に出すと、それを認識した「カウンター」が光を放つ。それに応えるかのように、足もとから青年の全身を取り込み、さらに身長の倍以上あるような、巨大な砂時計が現れた。オリフィスを通って、上にある白い粒子が、高速で落ちる。その粒子に包まれ、青年が白と黒のツートンカラーで構成された装甲を身にまとう。 それが完了すると、その砂時計が百八十度、右回りに回転し、爆(は)ぜるように消滅した。 「超次元管理官、リ=ヴァース。ユニ=ヴァースの力の元に、お前のひっくり返った価値観、反転させてもらう」 青年、いやリ=ヴァースが、静かに宣告した。 「えっと。なんで、今回、こんなにマジなの? なんで、名前がダサくないの? なんで、キメ台詞があるの? なんで名もなき戦闘員が、一人もいないの?」 怪人が、そう言った時。 「困ったもんだねえ」 と、若い男の声がした。 怪人とリ=ヴァースがそちらを見ると、そこにいたのは、白いロングコートを着た、長髪の男。右目を隠すように前髪を下ろしている。 「え? 誰?」 怪人が首を傾げる。 青年がリ=ヴァースに言った。 「どうして、一つの色に染めようとするのかな? どうして『多様』な価値観を認めないのかな? そんな『世界』、面白くないじゃないか」 そう言って、皮肉めいた笑みを浮かべる。 怪人がリ=ヴァースに問う。 「ねえ、誰、あれ?」 「いつも、いきなり現れては、意味深なこと言ってくるヤツじゃないか。お前の仲間だろ?」 「いや、あんなヤツ、知らんのだが?」 「そうか。黒幕か」 怪人には、リ=ヴァースの言っていることが、まったく理解できない。 「価値観が『多様化』しすぎるのも、考え物なんだが?」 また、新たな声がした。それは、スーツを着た長身の若い男。アンダーリムの眼鏡をかけている。 眼鏡のブリッジを押し上げながら、クールな声で、男が言った。 「『何でもあり』になってみろ、『世界』がメチャクチャになる。それを防ぐために、僕たちがいるんだがな」 「なんで、お前まで来るんだよ?」 と、リ=ヴァースが、やはり、静かに言った。 眼鏡の青年が、口元に、不器用な笑みを浮かべた。 「言っただろ、君は、監察官聴取の対象なんだ。メチャクチャなことをしてもらったら、僕が困る」 まるで「笑うのに慣れていない」、そんな笑みだった。 「自分勝手なヤツだな」 と、リ=ヴァースが首を横に振る。 「あのさ、この『全』シリーズ、何にも考えてない、脊髄反射だけで書いてるシリーズじゃないの? 今回、なんで、こんなにマジなの?」 さすがに、クレームつけられそうだったので。 「? 何、今の声?」 天の声だ、気にしないで欲しい。 眼鏡の青年が、手にした複数のボルトを、胸の高さに掲げる。 「フィクス」 その声に応えるかのように、眼鏡の青年の周囲に、大小、様々な形状の「ボルト」が現れ、青年の身体のあちこちにに刺さる。直後、ボルトが回転し、閃光とともに、青年を金色の装甲に包む。 「超次元監察官フィクス。お前のことも、聴取させてもらう」 フィクスの言葉に、怪人が納得したように頷く。 「……ああ! 自主ボツにした設定を、今回、消費したのか。……お前、最低だな」 やかましい。
(超次元管理官リ=ヴァース・全 了)
あとがき:まあ、たまには、こういうのも。
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