「零司さんが俺に相談っていうから、何かと思いましたよ」 火曜日の放課後、俺は昴にある海浜公園に零司さんといた。昴の東端に、隣の市との共有(ていうのも変だな、国有地だから)になるんだが、小規模の海水浴場があり、そこに海浜公園がある。昼休み、零司さんからメールで「相談したいことがある」って来た時にはビックリした。どっちかっていうと、俺が相談する方が多いからな。 ちなみに、授業の時は、携帯の電源は落としてるぞ、念のため。 この海浜公園は、そんなに大きいものじゃない。東賀の住宅地に児童公園があるんだが、それよりちょっと大きいぐらいだ。 例えが、わかりにくいな。 駐車場に使うとしたら、通行と離合とか考えたら、多分、三十台程度が限界だと思う。この公園って。 今は、十二月の半ばで、しかも夕方だから、人影は、まばらだ。 自動販売機で買ったのは、俺は緑茶、零司さんは、ほうじ茶。椅子に座り、零司さんが言った。 「悪いな、竜輝、メール出して。なんていうか、意念伝達とか式神とか、そんなのを使うほどのことでもなかったし」 「いいっスよ。で、何ですか、相談って? 珍しいですよね、俺に相談って?」 ペットボトルのふたをネジ開け、零司さんが言った。 「率直に聞くんだが。竜輝はラブレターとか、結構もらってるだろ?」 「え!?」 「君のことだ、こう言ったら語弊があるが、断るのも、ある程度は経験値を積んでるんじゃないのか?」 あぶねえあぶねえ。緑茶を口にしてたら、むせてるところだ。 「い、いや、そんなでも」 「ほんとか?」 と、疑わしそうに零司さんが俺を見る。 「ええっと」 と、俺は考える。 俺には、宗家を継ぐという責任上、女性と仲良くなれない呪術がかけられてるんです。 ……言えるわけないわな、一応、秘伝扱いの呪術だし。 だから、俺は古典的な言い訳をすることにした。 「な、なんか、珠璃が俺のことを『自分の売約済み』だ、みたいに触れ回ってるらしくて。だから、俺のことは放置っていうかなんていうか」 「そうか。そうだな、珠璃ちゃんなら、そのぐらいするかもな」 すまん、珠璃!! でも、あっさり零司さんが信じちまうような、お前の日頃の行いにも、責任はあるんだぞ? 「じゃあ、竜輝に相談しても、解決できないかもな」 「何スか、それ?」 ちょっと気になった。 「実は、ラブレターをもらったんだが」 この人なら、それこそ、両手じゃ、さばききれないだろうな。 「いつもは、友だち以上じゃない、とか、転校してくる前の学校に、恋人がいる、みたいな言い訳をしていたんだが」 ほうじ茶を一口含み、零司さんは飲み下してから溜息とともに言った。 「今度は、そうもいきそうになくてな」 「何です、それ?」 ちょっとよくわからないシチュエーションだな、それ? いつもの手が使えない? 「今回、手紙くれたの、転校してくる前に通ってた高校のクラスメイトなんだ」 「そうなんですか?」 前、零司さんがいた学校って、ここからかなり遠い。新幹線で一時間半以上はかかるんじゃないか? 「千京市にある大学を受験するらしくてな。説明会に来たらしいんだが、その時に俺を街中(まちなか)で見かけたみたいで。それで、同じ大学を受ける女生徒から新輝学園の女子を探して、近づいて、手紙を託したらしい」 「なんていうか。ものすごい行動力ですね」 以前、俺も似たようなことを体験したが、あれ以上なんじゃないだろうか。
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