「断ろうとは思ってるんだが、うかつなこと言えないしなあ。同じ学校だしな」 姉貴も頷く。 「難しいのよね、職場恋愛って。相手の受け取り方によったら、空気が悪くなるだけだし」 姉貴にも一応「異性と深い仲になれない呪術」がかけてあるんだが、俺ほど強力なものじゃないからな。理由はわかるよな? 直接、家を継ぐわけじゃねえから、基本的にそれほど「家」に縛られることもないからな。 「私もね」 と、紗弥さんが溜息をつく。 「時々、お誘いを受けるんだけどね。申し訳ないけど、平凡な人はちょっと」 初期設定が「天宮流神仙道道士」だからな、ここにいる女性。みんな、「普通」の人じゃあ物足りないだろう。 すると、自然にみんなの視線が杏さんと麻雅祢に集まった。 「ウチは、あまりこだわりはありまへんえ? 世の殿方の目的は、たいしてかわりまへん。『途中経過』で、どれだけ『面白い』お人か、試させてもらいますけど、今のところ、どんぐりの背くらべですなあ」 この人の予知能力は、無茶苦茶なレベルだからな。たいていのことなら、先が見えちまう。だから、一部には杏さんのことを「男をもてあそぶ悪女」みたいに言ってる女子もいるそうだけど、その人物が次はどういう行動に出るかっていうのがわかったら、色んなことが面白くなくなるんじゃないだろうか。 麻雅祢は。 みんなの視線が集まってるのに気づいてないのか、もくもくとティラミス、食ってる。 まあ、こういうヤツだしな。男子の方が可哀想だ。……麻雅祢に限ったことじゃねえが。 すると、珠璃が笑顔を浮かべて、俺を見て言った。 「ボクは、竜輝がいれば、それでいいから」 ……やべえ。今、耳が熱くなった。赤くなってねえといいんだが。 姉貴たちがニヤニヤしながら俺を見てるけど、気にしないでおく。 紗弥さんが凉さんに向き直った。 「でも、本当にどうするの? 下手なことしたら、その子、学校に来なくなるわよ?」 チョコを口に入れて、紅茶を飲むと、紗弥さんは少し考えてから言った。 「とりあえずお断りして『卒業後にまたアタックしてこい』。これが、無難なところかしらね」 「だからさ、紗弥。あたしは本当にどうでもいいんだって、その手のことは」 本当にうんざりしたように、凉さんがボヤいた。
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